【同一労働同一賃金】最高裁判決5件まとめ!判例から見る中小ベンチャー企業の今後の対応とは?

労働関連法の改正や働き方改革

2020年4月1日から、大企業において、「同一労働同一賃金」の適用がスタートしました。

中小企業においては、2021年4月1日から適用され、はれて、日本の全企業に対し適用されることになります。

中小企業への適用までの間に、既に適用が開始されている大企業においては、同一労働同一賃金に関するトラブルも出てきており、最高裁判所による判決が行われた事件も少しずつ出てきました。

今回は、「同一労働同一賃金」に関する最高裁判決から、これから始まる中小ベンチャーの「同一労働同一賃金」への対応を解説していきます。

社労士5000

そもそも、判例にどんな意味があるのか?

判例とは、過去の裁判所による判決の実例のことを指します。

判例自体に、「法律のように従わなければならない」といった拘束力はありません。

しかし、法律上の争い(訴訟や労働審判等)や行政指導など際には、裁判官や審判員、行政の職員は、自身が類似のケースの事件の判断をする際に判例を参考にし、決定を下すことが多くあります。

その中でも、最高裁判所の判決というものは、最も信頼のおける判断指針といえ、「法律」のような絶対的な基準ではありませんが、ほぼ、同様と考えることが非常に多くあります。

つまり、最高裁判例は、今後自社で似たようなトラブルが発生した際の判断基準となるのです。

最新の最高裁判決の要約と、判例から見る中小ベンチャーの今後の対応

同一労働同一賃金問題にも、最高裁判決少しずつ出てきました。

細かく解説している記事も多くありますが、経営者や労務担当者が知りたいのは、「判決がもたらすものは、何なのか」だと思います。

そのため、判例の内容については、簡潔に要点のみを解説いたします。

1、ハマキョウレックス事件(最二小判平成30年6月1日)

事件の概要

正社員(無期雇用)と契約社員(有期雇用)で、職務内容が同一であるにもかかわらず、各種手当の付与に相違があることは、労働契約法第20条が定める不合理な格差にあたるのではないかが争われた。

各種手当(無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当、皆勤手当、住宅手当)

判決

契約社員に対して、正社員に認められている無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当、皆勤手当支給しないことは、労働契約法第20条に違反する不合理な格差にあたるとされた。

判決のポイント

  • 手当に関するいかなる相違が認められないわけではない
  • 同一労働であったと言えるかどうかを検討した
  • 手当の性質や支給目的、労働契約法20条の諸事情(業務内容や配置転換の範囲など)にあたるかどうかを個別に考慮し、検討された

判決から見る今後の対策

  1. 有期社員・パート社員にも、正社員と同様の各種手当を支払うものとしてしまう
  2. 有期社員・パート社員に手当を支給しない、又は、額に差をつけるのであれば、自社における手当支給の目的、業務内容、配置の変更や範囲等その他の待遇の違いを明確に区分し説明できるようにしておく
  3. 正社員とそれ以外の違いを明確にするため、社員登用制度等も整備しておくとなおよい

2、長澤運輸事件(最二小判平成30年6月1日)

事件の概要

正社員(無期雇用)と定年後嘱託社員(有期雇用)で、職務内容が同一であるにもかかわらず、各種手当含む賃金に定年退職の前後で相違があることは、労働契約法第20条が定める不合理な格差にあたるのではないかが争われた。

判決

定年後嘱託社員に対して、正社員に認められている精勤手当、超勤手当(時間外手当)支給しないことは、労働契約法第20条に違反する不合理な格差にあたるとされた。

判決のポイント

  • 手当に関するいかなる相違が認められないわけではない
  • 同一労働であったと言えるかどうかを検討した
  • 手当の性質や支給目的、労働契約法20条の諸事情(業務内容や配置転換の範囲など)にあたるかどうかを個別に考慮し、検討された

判決から見る今後の対策

  1. 定年後嘱託社員にも、正社員と同様の各種手当を支払うものとしてしまう
  2. 定年後嘱託社員に手当を支給しない、又は、額に差をつけるのであれば、自社における手当支給の目的、業務内容、配置の変更や範囲等その他の待遇の違いを明確に区分し説明できるようにしておく

3、大阪医科大学事件(最判令和2年10月13日)

事件の概要

正職員(無期雇用)とアルバイト職員(有期雇用)で、職務内容が同一であるにもかかわらず、賞与の支給や欠勤時の賃金の扱いについて相違があることは、労働契約法第20条が定める不合理な格差にあたるのではないかが争われた。

判決

本件におけるアルバイト職員に対し、賞与の支給や欠勤時の賃金の扱いについて相違があることは、いずれも、労働契約法第20条が定める不合理な格差にはあたらないとされた。

判決のポイント

  • 賞与に関するいかなる相違が認められたわけではない
  • 同一労働であったと言えるかを検討した
  • 賞与の性質や支給目的、労働契約法20条の諸事情(業務内容や配置転換の範囲など)にあたるかを検討した

判決から見る今後の対策

  1. 有期社員・パート社員にも一定水準の賞与を支払うものとしてしまう
  2. 有期社員・パート社員に賞与を支給しない、又は、額に差をつけるのであれば、自社における賞与支給の目的、業務内容、配置の変更や範囲等その他の待遇の違いを明確に区分し説明できるようにしておく
    (本件では、労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上の趣旨を含むものとして相違があることが認められているが、単に業績に連動するといったものの場合、相違の理由としては、認められにくくなると考えられる
  3. 正社員とそれ以外の違いを明確にするため、社員登用制度等も整備しておくとなおよい

4、メトロコマース事件(最判令和2年10月13日)

事件の概要

正社員(無期雇用)と契約社員(有期雇用)で、職務内容が同一であるにもかかわらず定年退職時の退職金の支給に相違があることは、労働契約法第20条が定める不合理な格差にあたるのではないかが争われた。

判決

正社員に対して退職金を支給する一方で、契約社員に対して退職金を支給しないという労働条件の相違は労働契約法20条にいう不合理には当たらないとされた。

判決のポイント

  • 退職金に関するいかなる相違が認められたわけではない
  • 同一労働であったと言えるかを検討した
  • 退職金の性質や支給目的、労働契約法20条の諸事情(業務内容や配置転換の範囲など)にあたるかどうかを検討した

判決から見る今後の対策

  1. 有期社員・パート社員にも一定水準の退職金を支払うものとしてしまう
  2. 有期社員・パート社員に退職金を支給しない、又は、額に差をつけるのであれば、自社における退職金支給の目的、業務内容、配置の変更や範囲等その他の待遇の違いを明確に区分し説明できるようにしておく
  3. 正社員とそれ以外の違いを明確にするため、社員登用制度等も整備しておくとなおよい

5、日本郵便事件(最一判令和2年10月15日(3件))

事件の概要

集配・出荷業務などの契約社員(有期雇用)が、正社員と同じ仕事内容にもかかわらず、各種手当など労働条件に相違があることは、労働契約法第20条が定める不合理な格差にあたるのではないかが争われた。

各種労働条件(年末年始勤務手当、祝日給、扶養手当、夏季及び冬期休暇、私病による病気休暇の有給扱い

判決

各種労働条件の相違は、いずれも、労働契約法20条にいう不合理な格差とされた。

判決のポイント

  • 同一労働であったと言えるかどうかを検討した
  • 各種労働条件の性質や支給目的、労働契約法20条の諸事情(業務内容や配置転換の範囲など)にあたるかどうかを検討した
  • 各種労働条件に相違があり、同一労働と言えないとしても、手当や休暇の本来の目的に照らして格差が妥当でなければ不合理と判断されるものであると判断した

判決から見る今後の対策

本件において、年末年始勤務手当、祝日給、扶養手当、夏季及び冬期休暇、私病による病気休暇の有給扱いに相違があることは違法であるため、以下のことが考えられます。

  1. 有期社員・パート社員も支給対象としてしまう
  2. 本件における各種労働条件のような名目の手当については、廃止、又は、他の給与項目に吸収するなどし、違法となり得る手当をなくす

同一労働同一賃金の基礎となる法律

全ての判例において出てくる「労働契約法第20条」とは、不合理な労働条件の禁止について定めた法律で、同一労働同一賃金の根本となる条文となります。

本条では、労働条件の相違が不合理と認められるかどうかは、以下を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されるとしています。

  1. 職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う職責の程度)
  2. 当該職務の内容及び配置の変更の範囲
  3. その他の事情

法改正により、「労働契約法第20条」は削除され、2020年4月に施行(中小は2021年4月)された同一労働同一賃金について定めた新たな法律である「パートタイム・有期雇用労働法」の8条ほぼ同一の内容で引き継がれており、今後においても上記の各種事情から、不合理であるか否かを考慮されることになります。

まとめ

パートタイム・有期雇用労働法8条(旧労働契約法第20条)は、具体的にどのような格差が不合理なのかについては記載がなく、実務上の解釈の問題となっており、明確な判断基準がありませんでしたが、上記各事件により、最高裁判所としてのパートタイム・有期雇用労働法8条(旧労働契約法第20条)の解釈に対する立場・方向性を示した判例となったと言えます。

2021年4月から適用される中小企業としては、この最高裁判例を参考に、同一労働同一賃金対応について検討する必要があるでしょう。