Q&Aから読み解く、SES事業の注意点を解説!

派遣と業務委託

労働者派遣請負準委任を含む業務委託を行う上では、注意しなければならないことが多くあるため、労働局もガイドラインを策定しており、Q&A形式なども用いて記載されています。


労働者派遣・請負を適正に 行うためのガイド】厚生労働省・都道府県労働局


しかし、ガイドラインやQ&Aを見ても、どういった部分がSES事業に関連があるのか、よくわからないというのが実情ではないでしょうか?

今回は、当該ガイドラインの偽装請負に関するQ&A部分について、特にSES事業者に関連がある項目をピックアップ・要約・解説をしたいきたいと思います。

役所のガイドラインやQ&Aを読み解くには、主語がどこにあるのかを意識すると理解しやすくなります。
特に、業務委託関連の話では、主語が発注者(委託者、ユーザー)なのか、請負事業主(受託者、ベンダー)なのか、請負労働者(作業者)なのかで、大きく話が変わりますので、注意してください。

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管理責任者の兼任


Q1、 請負事業主の管理責任者が作業者を兼任する場合、管理責任者が不在になる場合も発生しますが、請負業務として問題がありますか。


A、
・作業者を兼任して通常は作業をしていたとしても、これらの責任も果たせるのであれば、兼任は可能
・管理責任者が休暇等で不在にすることがある場合には、代理の者を選任しておけば、特に問題なし
・ただし、当該作業の都合で、事実上は請負労働者の管理等ができないのであれば、偽装請負と判断されることもある
・請負作業場に、作業者が1人しかいない場合で当該作業者が管理責任者を兼任している場合、偽装請負と判断されることがある

【解説】
指揮命令の系統に関する事項です。一般的には、指揮命令は会社同士でやり取りを行いますが、業務の簡略化のため、現場責任者を立てる場合があります。
請負事業主の管理責任者は、請負事業主に代わって、請負作業場での作業の遂行に関する指示、請負労働者の管理、発注者との注文に関する交渉等の権限を有します。
作業者であり責任者である(兼任する)こと自体はOKですが、管理業務ができていなかったり、作業者が1人の場合の兼任は、発注者から直接の指揮命令があると判断されます。

管理責任者の不在等


Q2、 請負労働者が発注者の事業所で1人で請負業務を処理しています。そこには、請負事業主の管理責任者は常駐しておらず、請負労働者や発注者との連絡調整のため、必要に応じて巡回して業務上の指示を行っていますが、請負業務として問題がありますか。


A、
・請負業務を行う労働者が1人しかいない場合、当該労働者が管理責任者を兼任することはできない
・当該管理責任者が業務遂行に関する指示、労働者の管理等を自ら的確に行っている場合には、管理責任者が発注者の事業所に常駐していないことだけをもって、直ちに労働者派遣事業と判断されることはない

【解説】
Q1でも解説しましたが、作業者1人の現場で責任者を兼任することはできませんが、指揮命令・労務管理等がしっかり受注者側でされていれば、責任者は常駐でなくても問題ありません。営業担当者などを責任者とするケースなどがよく見受けられます。

また、偽装請負と判断されないためには、管理責任者の不在時であっても、発注者による指揮命令・労務管理等が行われないように、管理体制の構築や発注者との情報共有などにより注意を払う必要があるでしょう。

作業工程の指示


Q3、 発注者が、請負業務の作業工程に関して、仕事の順序の指示を行ったり、請負労働者の配置の決定を行ったりしてもいいですか。また、発注者が直接請負労働者に指示を行わないのですが、発注者が作成した作業指示書を請負事業主に渡してそのとおりに作業を行わせてもいいですか。


A、
・発注者が請負業務の作業工程に関して、仕事の順序・方法等の指示を行ったり、請負労働者の配置、請負労働者一人ひとりへの仕事の割付等を決定したりすることは、請負事業主が自ら業務の遂行に関する指示その他の管理を行っていないので、偽装請負と判断されることになる
・こうした指示は口頭に限らず、発注者が作業の内容、順序、方法等に関して文書等で詳細に示し、そのとおりに請負事業主が作業を行っている場合も、発注者による指示その他の管理を行わせていると判断され、偽装請負と判断されることになる

【解説】
作業指示や労務管理などが、どちらの権限に基づいて行われるか、といった項目です。請負事業主は、作業指示や労務管理などを発注者からは独立して(自ら)行う必要があります。
それは、口頭だけにとどまらず、書面によるものも含まれます。
発注書仕様書指示書などに詳細な手順などがある場合には注意が必要です。
「○○アプリの開発」などですと、あまりに広範囲過ぎ、現場での指示が疑われますが、かといって、素人でも作業できてしまうような詳細なものの場合でも、単なる労働力の提供として偽装請負の一部とみなされてしまう可能性があります。
明確な基準はありませんが、作業者がその仕様書や指示書を見て、実際に作業できるのかが一つポイントとなります。

請負業務において発注者が行う技術指導


Q4、 請負労働者に対して、発注者は指揮命令を行ってはならないと聞きましたが、技術指導等を行うと、偽装請負となりますか。


A、 業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理することなどの要件を逸脱しない範囲で、次の例に該当するものについては、当該行為が行われたことをもって、偽装請負と判断されない
ア 請負事業主が、発注者から新たな設備や改修された設備等を借り受けた後初めて使用する場合、当該
設備の操作方法等について説明を行う際に、請負事業主の監督の下で労働者に当該説明を受けさせる
場合
イ 新製品の製造着手時において、仕様等の補足的な説明を行う際に、請負事業主の監督の下で労働者に
当該説明(資料等を用いて行う説明のみでは十分な仕様等の理解が困難な場合に特に必要となる実習
を含みます)を受けさせる場合
ウ 発注者が、安全衛生上緊急に対処する必要のある事項について、労働者に対して指示を行う場合のもの

【解説】
アイウに該当する技術指導なら、OKということです。
ただ、ウの緊急時はともかくとして、ア・イに関しては、請負事業主の監督の下で行わなければなりませんので、注意が必要です。

請負業務の内容が変更した場合の技術指導


Q5、 製品開発が頻繁にあり、それに応じて請負業務の内容が変わる場合に、その都度、発注者からの技術指導が必要となりますが、どの程度まで認められますか。


A、
・発注者から請負労働者に対して直接変更指示をすることは偽装請負にあたる
・発注者から請負事業主(又は責任者)に対して、変更に関する説明、指示等が行われていれば、特に問題はない
・新しい製品の製造や、新しい機械の導入により、従来どおりの作業方法等では処理ができない場合で、発注者から請負事業主に対しての説明、指示等だけでは処理できないときには、Q4ア又はイに準じて、変更に際して、発注者による技術指導を受けることは、特に問題はない

【解説】
業務の変更に関しては、当然、直接の指示は偽装請負にあたりますので、請負事業主(作業責任者)を通して行う必要があります。
技術指導として行うのであれば、Q4ア又はイを守らなければなりません。

作業場所等の使用料


Q6、 発注者の建物内において請負業務の作業をしていますが、当該建物内の作業場所の賃貸料や光熱費、請負労働者のために発注者から提供を受けている更衣室やロッカーの賃借料についても、別個の双務契約が必要ですか。


A、 適正な請負と判断されるためには、請負事業主が請け負った業務を自己の業務として契約の相手方から独立して処理することなどが必要であり、単に肉体的な労働力を提供するものではないことが必要です。
そのためには、
・次のいずれかであることが必要
①請負事業主の責任と負担で、機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く)又は材料若し
くは資材を準備し、業務の処理を行う
②企画又は専門的な技術若しくは経験で業務を処理する

・①の場合に、請負業務の処理自体に直接必要とされる機械、資材等を発注者から借り入れたり、購入したりする場合は請負契約とは別の双務契約が必要
・請負業務の処理に間接的に必要とされるもの(例えば、請負業務を行う場所の賃貸料や、光熱費)、請負業務の処理自体には直接必要とされないが、請負業務の処理に伴い、発注者から請負事業主に提供されるもの(例えば、更衣室やロッカー)については、別個の双務契約までは必要なく、その利用を認めること等について請負契約中に包括的に規定されていれば問題ない

【解説】
SES事業の場合、材料などはないですが、pcなどは貸与されることが一般的かと思います。
原則的に言えば、pcの貸与は別途双務契約が必要になります。ただ、別途双務契約としなかったからと言って、直ちに偽装請負になることはありません。
指揮命令や労務管理の違反に比べて軽微な違反として扱われることが多いので、対策の優先度としては低いものと考えられます。

打ち合わせへの請負労働者の同席等


Q7、 発注者との打ち合わせ会議や、発注者の事業所の朝礼に、請負事業主の管理責任者だけでなく請負労働者も出席した場合、請負でなく労働者派遣事業となりますか。


A、
・管理責任者自身の判断で請負労働者が同席しても、それのみをもって直ちに労働者派遣事業と判断されることはない
・ただし、打ち合わせ等の際、作業の順序や従業員への割振り等の詳細な指示が行われたり、発注者から作業方針の変更が日常的に指示されたりして、請負事業主自らが業務の遂行方法に関する指示を行っていると認められない場合は、労働者派遣事業と判断されることになる

【解説】
発注者から直接指示が出ていなければ、作業者の打ち合わせ同席もOKです。
直接の指示は当然ですが、間接的な指示が発生しないようにも注意が必要です。

発注者による請負労働者の氏名等の事前確認


Q8、 請負業務の実施に当たり、情報漏洩防止のため、発注者が、請負労働者から請負事業主あての誓約書を提出させ、その写しを発注者に提出するよう求めることは可能ですか。また、請負事業主の業務遂行能力の確認のため、請負労働者に職務経歴書を求めたり事前面談を行ったりすることは可能ですか。



・請負事業主が、請負業務に従事する労働者の決定を自ら行っている場合は、発注者が請負事業主に対し、情報漏洩防止のため、請負労働者の請負事業主あての誓約書の写しを求めても、そのことのみをもって労働者派遣事業又は労働者供給事業と判断されることはない
・発注者が請負労働者の職務経歴書を求めたり事前面談を行ったりする場合は、一般的には当該行為が請負労働者の配置決定に影響を与えるので、労働者派遣事業又は労働者供給事業と判断されることがある
・特に、職務経歴書の提出や事前面談の結果、発注者が特定の者を指名して業務に従事させたり、特定の者について就業を拒否したりする場合は、発注者が請負労働者の配置等の決定及び変更に関与していると判断されることになる

【解説】
発注者が、作業者を選定することはできません。発注者の依頼は「業務の委託」であって、「労働者の提供」ではないからです。
面接とはしていないものの、事前面談などを行うSES事業者は多くいますが、労働局は実態をもとに判断しますので、立て付けだけでなく行っている中身も労働者の選定にならないようにしましょう。
回答を見る限り、特に職務経歴書などは、労働者の選定に他ならないというのが、労働局の考えのようです。
請負事業主が自ら労働者を決定しているのであれば、誓約書などは問題ありません。

 


Q9、発注者の社内セキュリティー規定により、発注者の施設内に入場する請負労働者の 氏名をあらかじめ請負事業主から提出させ、発注者が確認することは問題がありますか。



労働者の配置等の決定や変更を請負事業主自らが行っている限り、施設の保安上の理由や企業における秘密保持等、発注者の事業運営上必要な場合に、従事予定労働者の氏名をあらかじめ発注者に提出しても、そのことのみをもって発注者が請負労働者の配置等の決定及び変更に関与しているとは言えず、直ちに労働者派遣事業又は労働者供給事業と判断されることはない
・請負事業主から発注者へ請負労働者の氏名等の個人情報を提供する際には、個人情報保護法等に基づく適正な取扱(例えば、あらかじめ請負労働者本人の了解を得る等)が求められる

【解説】
Q8と同様、労働者の選定に繋がっていなければ、事前情報の共有は可能です。

まとめ

偽装請負の判断に明確な基準はなく、実態を含め総合的に勘案し、偽装請負と言えるのかどうか判断されます。
そのため、書面関係だけを整えても足りません。実態がどうだったかまでが判断の材料となります。そして、その判断の裁量は労働局にあります。
今回は、特にSES事業者に関連がある項目をピックアップしましたが、その他の項目も含め、ガイドラインや通達に注意して運用するようにしましょう。