テレワーク時代におけるフレックス制などの労働時間を変更する方法

社労士5000

コロナ時代における柔軟な労働時間

新型コロナウイルスが蔓延し、働き方もテレワーク時差通勤などの柔軟な対応が求められています。今回は、会社が知っておくべき制度を解説します。

フレックスタイム制の緊急実施・運用の柔軟化

フレックスタイム制については、以下がその導入の要件となります。

  1. 就業規則などにより「その労働者に係る始業及び終業の時刻をその労働者の決定に委ねること」を明記する
  2. 過半数組合・過半数代表者との間で所要の事項について労使協定を締結する

いくら緊急性があるからといって、就業規則の定めも労使協定もないのにフレックスタイム制を緊急実施することはできません

すでにフレックスタイム制を導入している場合において、就業規則・労使協定にはコアタイムの定めがあるにもかかわらず、在宅勤務の緊急実施に伴い、一時的にコアタイムの定めを適用しないとすることは可能です。

コアタイムを設定することの意味は、正当な理由なくコアタイムに労務提供しなかった対象従業員について職務専念義務違反としてマイナス評価や懲戒処分の対象とし得ることに尽きると思われます

しかし、緊急的・時限的な措置として、テレワーク勤務者についてはコアタイムに労務提供しなくとも直ちにマイナス評価や制裁の対象としない旨を表明することは、企業の自由であるはずです。

始業・終業時刻の自己判断による繰上げ・繰下げ

在宅勤務の緊急実施に伴い、従業員が就業規則所定の始業・終業時刻の繰上げ・繰下げを一定の範囲内(たとえば前後2時間の範囲)において自己判断において実施する運用についても、緊急的・時限的措置であれば、就業規則の変更なく実施可能です。

通常の就業規則においては、始業・終業の繰上げ・繰下げに関する条項(たとえば、「会社は業務上の必要性に基づき、始業・終業時刻を繰上げ・繰下げ、又は休憩時間を変更することがある」というような条項)が存在しているはずです。

しかし、これらの条項については、企業側が始業・終業時刻の繰上げ・繰下げに関する権限を有していることが前提となっていると思われます。

さらに、始業・終業時刻の繰上げ・繰下げに関する就業規則条項が存在しない場合であって、企業と従業員との間の個別合意により、一定期間、一定の範囲で、従業員に始業・終業時刻の繰上げ・繰下げの権限を与えることも可能です。

終業時間の繰下げ+無給休憩の追加

では、在宅勤務の緊急実施に伴い、従業員の終業時刻を一定時間繰り下げるとともに、繰り下げた時間だけ、労働時間の途中に休憩時間(無給)を追加する運用についてはどうでしょうか。

これは例えば、就業時刻上の始業・終業時刻が9時00分から18時00分、休憩時間は途中に1時間、とされている場合に、終業時刻を19時00分に1時間繰り下げるとともに、無給の休憩時間を1時間追加するという運用です。

企業・従業員間の個別合意により、そのような変更を実現することも、さらには、一定期間・一定範囲において対象従業員にそのような変更の権限を付与することも、ともに可能であるはずですので、かかる運用についても同じく、緊急的・時限的措置である限り、就業規則の変更なく実施可能です。

もちろん、このような運用を常習化なものとして制度化するのであれば、その旨の就業規則化が必要になります。

以下において、条項例を示しますので、参考にしてください。

【テレワーク規則中、始業・終業時刻、休憩時間帯の変更等に関する条項例】

第○条(在宅勤務時の労働時間等)

1.在宅勤務時の始業・終業時刻及び休憩時間については、就業規則第○条の定めるところによる。

2.前項の定めにかかわらず、在宅勤務者は前項の始業・終業時刻及び休憩時間を前後2時間の範囲で繰上げ、又は繰下げすることができる(繰上げ・繰下げの単位は15分単位とする)。また、在宅勤務者は、○○時○○分から○○時○○分の間において、合計1時間の休憩を2回に分割して取得することができる(分割の単位は15分単位とする)。

3.在宅勤務者は、前項による始業・終業時刻及び休憩時間の繰上げ・繰下げ、並びに休憩の分割取得について、電子メールにて○労働日までに所属長に連絡しなければならないものとする。○労働日前までに連絡できなかった場合の始業・終業時刻及び休憩時間の繰上げ・繰下げ、並びに休憩の分割取得については、所属長の承認を要するものとする。

4.在宅勤務者は、○労働日までに所属長の承認を得ることにより、その終業時刻(第2項及び前項により繰上げ・繰下げされた後の時間時刻を含む)を2時間の範囲で繰下げるとともに(繰下げの単位は15分単位とする)、繰下げた時間数に相当するだけ、労働時間の途中に休憩を追加取得することができる(1日の所定労働時間は変更しないものとする)。なお、繰下げ時間が30分を超える場合は、追加取得する休憩は15分単位で分割することができる。