大人数の退職勧奨において気をつけるべきポイントを解説

社労士5000

大規模な退職勧奨の気を付けるべきポイント

コロナ禍の中、会社として経営が苦しくなっているところがあります。

某タクシー会社の数百人の整理解雇をするなど、経営者も従業員の対処をどうするかは考えているところだと思います。

解雇は、そう簡単にはできないので、まずは退職勧奨という形で、行うことがほとんどです。

仮に退職勧奨に同意をして、退職合意書にサインをしたとしても、合意退職の効力が否定されることがあります。

従業員が退職合意書にサインをしたとしても、日本の労働法では労働者を保護するため、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる、合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点から有効・無効を判断します。

では、大人数の退職勧奨において何に気をつけるべきでしょうか。

会社情報をちゃんと提供しているか

会社としては、従業員に対して、現在の会社の経営状態(売上、人件費、資金繰り等)を具体的にかつ事実に基づいて説明したかが重要になります。

曖昧もしくは事実に反する内容を説明した場合は、退職合意書にサインをしたとしても「労働者の自由な意思に基づいてなされたもの」と判断されないと思います。

また、書面のみ交付するだけでなく、説明会や対面の説明もあれば良いですし、説明資料を渡したほうがより「労働者の自由な意思に基づいてなされたもの」と判断されやすいです。

検討する時間は、どこまであるか?

退職勧奨については、説明を受けた後、どの程度検討する時間を与えたかが重要であり、その場でサインをすることを求めたのか、一度家に持ち帰って検討してもらったのか、数日間考える時間を与えたのか否かは「労働者の自由な意思に基づいてなされたもの」かどうかの判断に影響を与えます。

特別な金銭給付があるか

退職勧奨については、「金銭」については、特別退職金や有給休暇の買取りなどにより通常の退職金に追加して支払う場合があります。

退職の際に支払う金銭が多ければ多いほど、「労働者の自由な意思に基づいてなされたもの」と判断されやすいと思います。

裁判例について

一例を挙げれば、リーマン・ショック後の減産を理由とした期間雇用の不更新同意の有効性が争われた本田技研工業事件(東地判平 24.2.17)において、説明会における説明内容が具体的であったこと(「情報」)、説明会後に不更新合意が記載された契約書に署名し、かつ約 20 日後に退職届を出したこと(「時間」)、退職手続を整然と履行して会社から支給される慰労金及び精算金を受領したことから(「金銭」)、不更新同意が有効であると判断しました。

希望退職制度とは

希望退職制度とは、会社が従業員の自主的な退職を募ることを指します。

一部の従業員に退職して貰う場合は、一定の条件を提示して退職する従業員を募る方がトラブルも少なくなります。希望退職に伴う退職の場合であっても、会社都合退職での雇用保険の受給が可能となります。

全従業員に対する希望退職募集は退職勧奨と変わりがないのではないかとの疑問が湧きますが、実際に筆者は何度も全従業員に希望退職募集を行いましたが、スムーズに退職に同意していただくケースが圧倒的多数でした。

希望退職募集を行うことで、希望退職募集要項を文書で掲示したり説明することで十分な「情報」を提供することができます。希望退職募集は、一定の時間退職募集を行うので「時間」を掛けて考えることができます。

また、希望退職募集では、割増退職金を支払うことが一般で、もちろん会社の経営状態によっては多額の金銭を支払うことはできませんが「金銭」を支払うことになります。

再雇用を約束してよいのか

会社としては退職勧奨をする際に「環境が良くなったら再就職は約束するから」とつい言いたくなるところです。

コロナウイルスに関する厚生労働省のQ&Aにおいても「また、雇用保険の基本手当は、再就職活動を支援するための給付です。再雇用を前提としており従業員に再就職活動の意思がない場合には、支給されません。」との記載があり、再就職を約束して従業員に再就職活動の意思がない場合には失業手当は支給されません

会社としては、安易に再雇用の約束をしないようにしましょう!