能力が低い(不足)の社員は解雇できないのか?能力不足社員の解雇手続き【2022年4月加筆】

採用面接では「あれも経験あります」「これも出来ます」と豪語していたので期待をして採用したら、どれも言っていたほど出来ず、非常に困ったなんて経験をされたことが一度はあるのではないでしょうか。

補填的な採用場合、そのポストの仕事がある程度できることを前提に募集や採用を行うことが多いので、それができないとなると、そもそも採用しなかった、したくなかったという話になるでしょう。

こういった場合、資格があると言っていたのに実はなかったなど、その度合いが重大なものであれば、懲戒解雇などの話も考えられます。

しかし、そこまでではないが、会社が要求するレベルに達しない、いわゆる能力が低い・不足している従業員を、解雇することはできるのでしょうか。

社労士5000

能力が低い従業員を、会社は解雇することはできるのか

結論から言うと、能力不足の従業員を解雇することはできます。ただし、非常にハードルが高いものとなります。

その理由は、能力不足により解雇までしなければならない理由やそれを証明する証拠をそろえることが難しいからです。

一般的な解雇であれば、非常に欠勤が多く勤務実績が不良であったり、従業員の故意・重過失により会社に損害を与えたり、懲戒事由に該当したりと、何かしらの事柄があって、それに対する処分として行われていますが、「仕事が遅い」「能力が低い」といったことだけでは、まだ何も起きていない状況です。

また、仕事ができる・できないの判断は、人や業務、クライアントなどによって変わってくるものであり、客観的に見て、本当にその従業員の能力が不足していると言い切ることが難しいことなどといった理由もあります。

高いハードルを越えて、能力不足による解雇をするには

上記でも述べたとおり、能力不足による解雇には、非常に高いハードルがありますが、解雇できないというわけではありません。

では、どのように解雇にもっていく必要があるのでしょうか。ポイントは、「解雇以外の対策を尽くすこと」です。

どういうことかというと、能力が低いから即解雇、とすると争いになった場合には、九分九厘、不当解雇と判断されます。

それは、会社として何の手も打たずに解雇とすることは、「客観的合理性を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定める労働契約法の解雇権濫用の規制に抵触すると考えられるからです。

そのため、適正な解雇であると判断されるためには、解雇権を濫用したものでないことが必要であり、そのためには、「解雇にならないため、あらゆる手を尽くしたが、改善されないため、やむを得ず解雇とした」というストーリーが必要になるのです。

企業側の具体的な対応

具体的には、教育訓練配置転換などを行うことが考えられます。

何ら教育・訓練をしていないにもかかわらず、求めていた能力に満たないから解雇、というのは、労働者にはあまりに酷な話であり、当然法律上も認められるのは難しいでしょう。

OJTやOFF-JTなどにより、自社の求める水準に引き上げることが、会社として必要です。

各種教育をもってしても、能力を発揮できなかった場合には、部署や業務の変更などの対策も必要です。

適材適所という言葉のとおり、別の部署・業務においては、高い能力を発揮するかもしれません。

教育訓練や配置転換を行う際に共通して重要なのが、これらの実施の記録や結果の記録(できれば書面)を残しておくことです。

「あらゆる手をつくした」といっても、その証拠がなければ、認められないこともあります。また、「改善されなかった」ことについても、証拠がなければ、監督署や裁判所の判断材料となりえません。

できるだけ細かく記録を残すように対応しましょう。

一般的な能力不足解雇より認められやすい事例

一般的な従業員の場合には、上記のようなハードルがありますが、一部の雇用形態の場合には、一般的な雇用形態の従業員にくらべ、解雇が認められやすいことがあります。

その一つが試用期間中の従業員です。

試用期間は、その名の通りお試しの期間であることから、その期間で従業員としての資質が認められなければ、本採用拒否として、実質解雇が認められることがあります。

もう一つが、職種や業務が限定され、高い賃金が支払われるいわゆる即戦力としての採用をした従業員です。

この枠での採用は、あらかじめ職種や業務が限定されていることから、教育がされていることが採用の前提であり、配置転換が難しいことから、一般的な従業員に比べ、能力不足による解雇が認められやすくなります。

これらの場合でも、あくまで一般的な従業員に比べて能力不足による解雇が認められやすいといったものであり、必ず認められる・容易に認められというものではないので、会社として行わなければならない対応は、一般的な従業員へのものと何ら変わりないことに注意が必要です。

まとめ

求めていた能力に達していなかったとしても、会社は簡単に解雇することはできません。

もしそれでも解雇が必要なのであれば、細心の注意を払い、手続きを進める必要があるのです。