3月〜4月は入社や退職のシーズンです。企業は、退職届やら、雇用契約書やらと各種書面の用意をしなければならないことが増えてきます。
退職届や雇用契約書などの絶対に必要になる書類は、どの企業でも用意をしているかと思いますが、案外忘れがちにもかかわらず、非常に重要になってくるのが、「秘密保持」に関する書類です。
一般的には、秘密保持誓約書などといった形で作成することが多いですが、どういったことに気を付ける必要があるでしょうか。
採用時と退職時の秘密保持誓約書の違い
法的に分けなければいけないということはありませんが、入社してこれから働くにあたって守ってもらう事項と、退職して辞めた後に守ってもらう事項とそれぞれ違いありますので、分けることが多くあります。
また、退職時には、入社時の誓約を忘れていることが多くあるので、再度認識させるためにも、退職時にも誓約書を作成することがあります。
採用時の秘密保持誓約書の内容
入社するにあたり作成する秘密保持誓約書には、概ね次の事項を入れておくことが望ましいでしょう。
1)秘密の対象と、やってはいけないこと
まずは、当該誓約書において、一番の目的である秘密を保持してもらうための条項を作ります。
秘密にも、技術上のもの、営業上の者、顧客についてなど、様々です。秘密として取り扱うものに関しては、漏れのないよう記載をしましょう。
そして、その秘密をどうしてはいけないのかをしっかりと規定します。
一般的に考えられるのは、「第三者への漏洩」ですが、「漏洩」をしないことだけを義務にした場合、自分のために「利用」「保管」したりすることは許されるとも読めてしまいます。
そのため、広く「漏洩」だけを禁止するのではなく、自社として困ることは、なるべく列挙しておくことをお勧めします。
一生懸命、秘密の対象となるものを列挙しているにもかかわらず、それを秘密と規定しただけで、どういった義務を負わせるのかを規定していないものも稀に見かけます。
「何をどうしたらいけないのか」という文章が成立するようにする必要があります。
2)秘密情報の帰属(誰のものなのか)
新しく生み出されたものに対する条項です。何も規定をしなければ、原則としては作成した人のものになります。
業務上生まれたものであれば、一切の権利を自社に譲渡するといった内容が良いでしょう。
3)メール等のモニタリングの同意
秘密情報の保護のために、メール等の監視をすることがある旨を同意させる条項です。
例えば、秘密情報の漏洩等が疑われる従業員に対して、調査をする際などに必要な規定となります。
モニタリングをする際は、「本人に断りなく行う」といった旨の記載があると、スムーズに調査等を行うことが出来ます。
4)退職時・退職後の秘密保持
退職時の秘密保持誓約書は、別途作成することを推奨していますが、当然退職時・退職後にも秘密保持に関する義務があることを知らせるために、条項として入れておくことがあります。
また、無断退職などにより退職時の秘密保持誓約書が取れなかった場合などに備えて、条項を入れておくのが良いでしょう。
内容としては、退職時には全ての秘密情報を返還又は廃棄する旨の文言や、退職後にも開示、漏洩、利用等をしないといった旨を定めます。
5)損害賠償
今まで規定したことに違反した場合に、その損害を賠償させるための条項です。
意外と規定することを忘れている場合があります。この条項がなければ、請求が出来なくなるといったことではありませんが、その場合は、民法における範囲に限られてしまいます。
認められるかはまた別の話になりますが、民法より広い範囲の損害の賠償を請求したいのであれば、当該条項を設けておく必要があります。
心理的な負荷を与えるためにも、記載をしておくことが望ましいでしょう。
退職時の秘密保持誓約書
退職時の秘密保持誓約書の内容は、概ね入社時のものと同様となりますが、退職時特有の条項もあります。
1)秘密の対象と、保有していないことの誓約
これは、入社時とほぼ同様です。
言い回しとしては、退職後は、全ての秘密情報を返還又は廃棄しており、従業員はなにも秘密情報を持っていないことになるので、列挙した会社の秘密情報を保有していないことを誓約させます。
もし漏洩や利用があれば、保有していないことを誓約した当該条項に違反することになり、後述する損害賠償の対象になるという流れです。
2)秘密情報の帰属
これも入社時と同様です。退職時にも再確認の意味で記載しておくのが良いでしょう。
3)退職後の秘密保持
退職後にも秘密保持義務が課せられる旨を規定します。
(1)により、秘密情報は保持していないことが前提ですが、仮に保持していた場合にはその漏洩や利用をさせないための条項です。
「1条に定める秘密情報は~」などの文言により、「何を、どうしたらいけないのか」の文章構成になるように作成しましょう。
4)損害賠償
これも入社時と同様です。
心理的な負荷を与えるためにも、記載しておくことが望ましいでしょう。
4)競業避止義務
入社時の誓約書との最大の違いは、競業避止義務の条項です。
競業避止とは、簡単に言うと「同業他社への転職や同種の開業を制限する」といったものです。
競業避止義務が認められるためには、以下のものである必要があります。
- ノウハウの流出など企業側に守るべき利益があることを前提として、
- 競業避止義務が過度に職業選択の自由を制約しないための配慮を行い、
- 企業側の守るべき利益を保全するために必要最小限度の制約を従業員に課すもの
ここで言う「配慮」とは、地域を限定することや競業避止義務の期間を限定、代償措置などを講じることなどを指します。
この競業避止の有効性については、事案ごとにばらつきがあり、正直に言って、認められるかはなかなか難しいところにあります。
ただ、有効かどうかは争いがあるとしても、規定をしておかなければ自由になってしまうので、ノウハウの流出などを懸念されるのであれば、必ず競業避止義務の条項を定めるようにしましょう。
もし、代償措置を講じるのであれば、代償措置を講じたことやその際の金額などを受理したことの確認の条項も入れておくとよいでしょう。
契約書と誓約書の違い
契約書じゃなくてもいいのか?とよく聞かれます。
契約書は当事者双方が義務を負うのに対し、誓約書は一方のみが相手方に対し義務を負うものになります。
秘密保持に関しては、会社側が労働者に対して義務を負うことは通常ないので、誓約書の形で問題ありません。
まとめ
インターネットが発達している現代では、どんなところから情報が洩れるかわかりません。企業として秘密保持に積極的に取り組んでいるとアピールするためにも、入退社時には確実に秘密保持について定めるようにしましょう。
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これを機に、自社の社内様式を見直してみてください。