配置転換について、企業側が注意すべき点を裁判例から解説

社労士5000

配置転換のルール

会社は、人員の適正配置等の理由によって、社員に対して配置転換を命令することができます。

会社が社員に配置転換を命令するためには、以下の2つが必要です。

  1. 配転命令の根拠がある
  2. 配転命令が権利濫用にあたらない

よく問題になるのが、配転命令が権利濫用にあたるかです。

判例では、以下の基準が次のように示されています。

配転命令については、

  1. 業務上の必要性がない場合、 又は、業務上の必要性がある場合であっても
  2. その配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき
  3. 労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき

などの特段の事情のある場合には権利の濫用となり、当該配転命令は無効となる。

労働者の受ける不利益の程度が通常甘受すべき程度を超えるかどうかは「その配転の必要性の程度、配転を避ける可能性の程度、労働者が受ける不利益の程度、使用者がなした配慮及びその程度等の諸事情を総合的に検討して判断する」と判示しました。

配置転換で会社側が負ける事情

従業員の受ける不利益の程度を軽く見た

配置転換については、従業員が不利益を受ける場合があります。

例えば、家族の事を理由に、配転命令に従った場合の不利益を主張する場合があります。

裁判例では、妻が精神疾患にり患していることによって生ずる不利益については、単に「世話が必要である」という程度を超えて、家族とともに暮らすという目標を失うこと、一人暮らしとなると精神的安定に影響を及ぼすこと、帯同して転居すると主治医との信頼関係が消滅すること等が重視されています。

また、両親の介護を必要としていることによって生ずる不利益についても、妻がいるとしても1日中見守りを行うには妻単独では困難であること、帯同して転居すると新しい土地での生活に慣れることが難しいこと等の事情が、詳細に検討されています。

育児・介護休業法に「事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない」と定められています。

労働者の事情に配慮する努力をしなければならないと定められていることが、判決の判断に大きく影響しています。

事前に聴取を行わなかった

社員の不利益に対して配慮する前提として、社員側の事情を配転命令よりも前に聴取する必要があったにもかかわらず、これを怠ることが挙げられます。

裁判例では、会社が個人面談によって事情聴取をしたのは配転命令後だった場合、社員ごとの個別事情を考慮することなく配転命令を先に発して、後から事情聴取をするというのでは、配慮として不十分といわざるを得ないとされました。

社員に対し、積極的に聴取する姿勢が不足していた

また、会社側の事情聴取の手続が不十分、不適切であったことも挙げられます。

具体的には、個人面談では家族環境等の事情聴取を行ったものの、家族の病状や介護についての具体的な申告はなく、従業員の申告によってその不利益が明らかとなる場合です。

配転命令は「命令」であって、会社から社員に対して一方的になされるものです。

しかし、育児・介護休業法に努力義務が定められていることからもわかるとおり、有効に行うためには、社員側に大きな不利益があるかを事前に丁寧な事情聴取で確認すべきとされています。

面談時に社員側からの積極的な申告がなくても、実際に不利益となる事情があれば、裁判で配転命令が無効となってしまうおそれもあります。

面談時に、配転命令が無効となるような不利益がないかどうか、会社側が積極的に聴取しなかったことが、本判決の敗因の1つです。

裁判例でも、「少なくとも当該労働者が配置転換を拒む態度を示しているときは、真摯に対応することを求めているものであり、すでに配置転換を所与のものとして労働者に押し付けるような態度を一貫してとるような場合は、その配置転換が権利の濫用として無効になることがある」と判示していることからも、会社側が、社員の不利益について積極的に聴取し、配慮する姿勢を示すことが重要であることがわかります。

配置転換は慎重な手続きが必要

以上のように、配置転換については、会社側に慎重な手続きが求められます。

配置転換が無効にならないように注意しましょう!