IT企業の時差通勤についての注意すべきポイントを解説【2021年12月加筆】

社労士5000

IT企業における時差通勤

従業員の働き方が多様になり、出社時間が全員一律というのは、時代に合わなくなってきました。

また、今回の新型コロナウイルスの影響で「密」状態を作らないように、時差通勤を導入しているところも増えています。

このように、会社として時差通勤を導入する場合に、どこに気を付けるべきなのでしょうか?

会社から従業員に対して、一方的に時差出勤を命じることはできるか

企業の労働時間については、会社と従業員の雇用契約によって定められます。

契約内容となっているため、変更をする場合には、会社と従業員の間で、時差出勤の場合の始業時刻、終業時刻について、改めて、合意をする必要があります。

一方、会社によっては、就業規則に「業務の都合その他やむを得ない事情により、始業時刻、終業時刻を繰り上げ、または繰り下げることがある」という規定があることがあります。

この場合には、「その他やむを得ない事情」に該当する場合には、同規定を根拠に、時差出勤を命じることができます。

問題は、どういった場合に、「その他やむを得ない事情」に該当するかです。

例えば、新型コロナウィルスの感染予防のためというのは、どうでしょうか?現在、政府からも感染予防のために、時差出勤等を用いて、人混みを避けるように要請が出ています。

なので、このような場合には、「やむを得ない事情」に該当すると考えられます。

時差出勤を導入した場合、残業代の扱いは

前提として、時間外労働の割増賃金は、1日8時間を超える場合に発生します。これを超えない限りは発生しません。

そのため、例えば、時差出勤導入前、始業9時、終業18時、休憩1時間であった会社が、時差出勤の導入により、始業10時、終業19時、休憩1時間とした場合には、時間外割増の残業代は発生しません

ここで注意すべきなのは、制度はそのままにして、早出早退を命じる場合です。

例えば、先の始業9時、終業18時の会社で、この制度はそのままに、朝8時に出勤しての残業を命じ、17時に帰宅させた場合には、
1日の労働時間は8時間を超えませんが、終業時刻よりも早く帰宅させた時間分は、会社側が従業員の就労を拒否したと捉えられ、同時間分に対応する賃金の支払いが必要になります。

また、同じ8時間でも、22時〜午前5時にまたがる場合には、深夜割増の残業代(通常の賃金の1.25倍)の割増賃金が発生する点には、留意が必要です。

時差通勤で、労働時間を短くし、労働時間を短縮した分の賃金の減額もすることはできるか?

上記のように、労働時間は労働契約の内容となっているため、これを変更する場合には、従業員との間で合意が必要となります。

また、労働時間の短縮に伴い、短縮した時間に相当する賃金を減額する場合にも、社員と改めて合意をする必要があります。また、この合意も、有効かどうかは、会社側に厳しい判断がされます。

裁判実務上も、賃金減額の合意については、以下を考慮して、賃金減額の同意が従業員の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要とされています。

  1. 労働条件の変更により従業員にもたらされる不利益の程度
  2. 従業員が合意をするに至った経緯及びその態様
  3. 合意に先立つ労働者への情報提供又は説明内容

そのため、賃金減額を伴う短時間勤務を導入する場合には、従業員と十分に協議を行い、その過程を書面に残すなどして、労働条件の変更について同意を得る必要があります。

なお、会社によっては、就業規則・賃金規定に賃金表・賃金テーブル等が存在し、支給する給与の最低限の金額が定まっていることがあります。

賃金減額の合意内容が、この賃金表・賃金テーブルの最低金額を下回る場合には、就業規則を下回る給与金額での合意の部分が無効となりますので、注意が必要です。