パワハラは最悪どうなる?裁判例から見るパワハラ事件の末路とは【管理職】【2021年12月加筆】

2019年5月29日に、パワーハラスメント(パワハラ)防止を義務付ける法律(以下、パワハラ防止法)が、参議院にて可決し、成立しました。

義務化の時期は早ければ大企業が2020年4月、中小企業が22年4月の見通しとされています。

今後は、法律としてパワハラが取り締まられることになり、国を挙げて撲滅をしていくといった状況になってきています。

パワハラは、ひどい場合にはうつ病や自殺なども引き起こしかねない問題であり、社内のトラブルとして収まる問題ではありません。

今回は、もしパワハラが発生してしまった場合、最悪どういった事態になってしまうのかを、実際の裁判例をもとに解説します。

社労士5000

「パワハラ防止法」はどういった法律なのか?

これまでパワハラは、法律上の明確な定義がなく対策は企業の自主努力に委ねられていましたが、今回「優越的な関係を背景にした言動で、業務上必要な範囲を超えたもので、労働者の就業環境が害されること」と定義されました。

その上で、企業に相談窓口の設置など新たに防止措置をとることを義務付けるものになります。

従わない企業には、厚生労働省が改善を求め、それにも応じない場合には、厚労省が企業名を公表する場合もあるとする一方、罰則規定は見送られることになりました。

つまり、罰金や懲役などの罰則はないものの、社名公表などはあるという事です。

パワハラ問題がこじれると、最悪どうなるのか

もし、自社でパワハラが発生、または、自身がパワハラの当事者とされた場合、話し合いや懲戒処分など、社内において解決まで進めばよいですが、訴訟に発展するケースも多くあります。

パワハラ訴訟では、最終的にどういった判決になっているのか、実際の裁判をもとに紹介していきます。

(1)上司の注意・指導等とパワハラ

概要

製造業A社の工場に勤務していたBの後片付けの不備、伝言による年休申請に対し、上司CがBに対して反省文の提出等の注意指導を行った。Bは「上司Cの常軌を逸した言動により人格権を侵害された」と主張してA社及び上司Cに対し、民事上の損害賠償請求をした。

判決内容

  • 上司には所属の従業員を指導し監督する権限があり、注意し、叱責したことは指導監督する上で必要な範囲内の行為とした
  • しかし、反省書の作成や後片付けの再現等を求めた行為は、指導監督権の行使としては裁量の範囲を逸脱し違法性を帯びるものであった
  • A社と上司Cに対し不法行為に基づき、連帯して15万円の損害の賠償をするよう命じた

(2)先輩によるいじめと会社の法的な責任

概要

D病院に勤務していた看護師Eは、先輩看護師Fから飲み会への参加強要や個人的用務の使い走り、なにかあると「死ねよ」と告げたり、「殺す」などといった暴言等のいじめを受け、自殺した。

判決内容

  • 先輩看護師FのEに対するいじめを認定
  • 先輩看護師FにEの遺族に対する損害賠を賠償する不当行為責任と、勤務先であるD病院に対し、安全配慮義務の債務不履行責任を認定
  • 先輩看護師FがEの遺族に対し負うべき損害賠償額を1000万円と命じた
  • D病院に対して、先輩看護師Fと連帯して500万円の損害を賠償するよう命じた

(3)内部告発等を契機とした職場いじめと会社の法的責任

概要

勤務先Gの闇カルテを新聞社や公正取引委員会に訴えたHへ、転勤や昇格停止、長期間にわたる個室への配席等を行ったG社に対し、Hが損害賠償請求をした。

判決内容

  • 人事権行使は相当程度使用者の裁量的判断に委ねられているものの、裁量権は合理的な目的の範囲内で、法令や公序良俗に反しない程度で行使されるべきであり、これを逸脱する場合には違法である
  • 本件は、人事権行使の裁量権を逸脱するものであった
  • G社に対し、不法行為及び債務不履行に基づき、慰謝料200万円、財産的損害約1047万円、弁護士費用110万円の損害の賠償をするよう命じた

(4)肉体的・精神的苦痛を与える教育訓練と上司の裁量

概要

鉄道会社Iに勤務するJは労働組合のマークが入ったベルトを身につけて作業に従事していたところ、上司Kが就業規則違反を理由に取り外しを命じ、就業規則全文の書き写し等を命じ、手を休めると怒鳴ったり、用便に行くことも容易に認めず、湯茶を飲むことも許されず、腹痛により病院に行くこともしばらく聞き入れなかった。

判決内容

  • 違反に対する罰則としては、合理的教育的意義を認めがたく、人格を傷つけ健康状態に対する配慮を怠るものであった
  • 当該教育訓練は、見せしめを兼ねた懲罰的目的と推認され、目的において不当なもので、肉体的精神的苦痛を与え、人格権を侵害するものであった
  • これらのことから、当該教育訓練は、企業の裁量を逸脱・濫用した違法なものである
  • 上司K及びI社に対し、不法行為と使用者責任による損害賠償責任を認め、慰謝料20万円と弁護士費用5万円の支払いを命じた

(5)退職勧奨とパワハラ

概要

Lは航空会社Mの客室乗務員であったが、通勤途中の交通事故による欠勤後、M社から就業規則上の解雇事由に該当するとして、約4か月間・30回以上にわたる退職勧奨を受け、解雇されるに至った。このM社の行為に対し、Lから人格権侵害による損害賠償請求がなされた。

判決内容

  • 就業規則に規定する解雇事由には該当しない
  • M社による退職勧奨は、社会通念上許容される範囲とは言えない違法なもの
  • M社に対し、退職強要に対する慰謝料50万円、弁護士費用5万円の支払いを命じた

(6)パワハラ放置に基づく会社の損害賠償責任

概要

コンピュータネットワークの構築等を業とするN社の契約社員であったOが、部長Pによるパワーハラスメント行為等により、3か月の自宅療養を要する抑うつ状態及び身体化障害と診断されたところ、N社には、これを知っていたにも関わらず放置した等の過失があるとして、部長P及びN社に対し、不法行為等に基づく損害賠償請求をした。

判決内容

  • 部長Pが、業務について満足な指導を受けることが出来ていない状況知りながら、会議の席で厳しく仕事ぶりを揶揄し、金員を要求するような言動、退職を進めるような言動は不法行為にあたる
  • N社は、従業員が業務について十分な指導を受けた上で就労できるよう職場環境を保つ労働契約上の付随義務に違反している
  • 部長Pは不法行為、N社は使用者責任により、連帯して慰謝料50万円、弁護士費用5万円の損害を賠償するよう命じた

まとめ

パワハラにおいては、実際に行為をした者のみではなく、会社も連帯して責任を負うことも多くあります。

従業員が死亡したような場合には、数百万から数千万の賠償を命じられることも少なくありません。会社としては、常に目を光らせ、従業員のパワハラ撲滅を徹底する必要があるのです。