移動時間は、時に長時間になることもあります。国内の出張などでも数時間、海外ともなれば数十時間が移動時間となることも少なくありません。
この移動時間は、労働時間なのか、それ以外なのかでは、労務管理や給与計算の仕方が大きく変わってくるのです。
会社と労働者で、移動時間の考え方が異なっていると、トラブルの原因にもなりかねません。
今回は、労働者の「移動時間の考え方」について解説します。
出張時の移動時間は
出張となると、国内でも数時間、海外ともなれば十数時間になることもあり、丸一日移動日として取り扱うことも多々あるかと思います。
この出張における移動時間ですが、本来、労働時間には含まれないのです。
理由としては、出張における移動時間中は、管理者の監視下、監督下にないことが一般的であるからです。
移動時間中についても、顧客と同伴し案内や打ち合わせをしながら移動していたり、取り扱いに注意が必要な機器等を運んでいたりする場合には、移動時間そのものが業務であると考えられ、移動時間も労働時間であると判断される場合があります。
そのような業務が含まれた移動時間ではなく、本を読んだり、インターネットをしたりとある程度自由なのであれば、労働時間にはあたらないと考えます。
当然、労働時間に該当しなければ、賃金を支払う必要はありません。
一度出勤した後の移動時間
一度会社に出勤後、顧客先や作業現場などに向かうような場合があります。IT企業などでは、エンジニアが顧客先で作業をするようなこともあるでしょう。
このような場合の移動は、労働時間と考えます。
理由としては、一度会社に来るという指揮命令のもと、出勤後の移動であるからです。会社の指揮命令下に入った後の移動時間であれば、それは労働時間にあたります。
ただし、顧客先や作業現場にいわゆる直行するような場合には、一般の通勤と同じで、通常、労働時間とはなりません。
出張の移動時間と同じく、目的地に到着するまでは労働者の行動は自由であり、会社の指揮命令の下にないからです。
移動時間の判断のポイント
出張の場合や、出勤後の移動の場合でも触れたとおり、移動時間を労働時間と判断するかどうかの基準としては、会社の指揮命令・管理下にあったかどうかがポイントとなります。
移動中の行動においても、労働者の自由が会社により制限・管理されているような状態であれば、それは労働時間として考えられます。
外部の作業場所や営業業務などに従事する従業員に対し、最終的には会社に戻るような指示を出しているような場合には、報告書を出すだけといった場合や備品を返すだけといった場合でも、会社へ戻る移動時間は労働時間に含まれるものと考えます。
これは、明確なルールや命令があった場合限らず、暗黙の了解や慣習のような、明確ではないルール下でも同じと言えます。
この場合は、「黙示の指示」と言って、具体的な指示を出したり、ルールとして定めていなかったとしても、明確な指示があった、ルールとして定めていた場合と同じ効力があるものと考えます。
例えば、ルール上は帰社して報告書を提出しなければならないといった規定にはなっていなかったとしても、実質多くの従業員が、作業後帰社し報告書を提出してから退勤しているといった慣習となっている場合には、ルール上帰社は求めていなくとも、実質、帰社することを求めていることと同義でありそれは移動時間とはカウントされない(労働時間である)ことになります。
この場合、メールなどの方法により報告書の提出が可能である旨の規定があれば、名実ともに帰社を求めていなと言えます。
このように、労働時間としてカウントさせないためには、黙示の指示でないことはもちろんのこと、明確な指示・ルールを定めるだけでは足りず、それが実行に移せる仕組みになっている必要があるのです。
まとめ
単なる移動時間が労働時間となれば、会社側としては、その分の賃金を支払わなければならなくなります。それが残業時間にあたるものであれば、割増賃金も当然必要です。
会社側としては、どういった場合は移動時間で、どういった場合が労働時間であるか明確になるような仕組みづくりを心がけるようにしましょう。