【事例あり】男性従業員の育児休業とパタハラ問題を考える【2021年11月加筆】

2019年に入ってから、男性の育児休業に関するトラブルについてのニュースを度々目にします。

これらのニュースなかでもよく目にするのが、大手企業の男性社員が育児休業を取得したことにより、復帰後に相当性・合理性のないと思える移動や転勤、出向などを強いられるといった、いわゆる「パタニティーハラスメント(パタハラ)」を受けた、と労働者が主張する事案です。

今回は、実際にあった事案をもとに、パタハラに関するトラブルについて見ていきたいと思います。

社労士5000

パタニティーハラスメント(パタハラ)とは

パタニティーハラスメント(パタハラ)とは、男性従業員が育児休業の取得や、育児に参加することに対して、会社や上司などが、これを妨害・侵害する行為やその言動などを指します。

女性従業員の出産・育児等へのいやがらせであるマタニティーハラスメント(マタハラ)の男性従業員版とも言えるところがあります。

パタハラは、配置転換や降格、言動によるいやがらせなど、多岐にわたりますが、マタハラ同様、その行為は違法な行為であると判断されることがあります。

パタハラの法律上の扱い

育児休業を定める法律(育児・介護休業法)には、以下の規定があります。

  • 「労働者が育児休業の申し出をたり、育児休業をしたことを理由として、解雇やその他の不利益な取扱いをしてはならない

これは女性従業員だけではなく、男性従業員に対する不利益な取り扱いも禁止するものとされています。

ここで言う「不利益な取扱い」については、厚生労働省のガイドラインにより次のような具体例が挙げられています。

  • 解雇
  • 雇止め
  • 自宅待機命令
  • 意に反する時間外労働の制限
  • 降格
  • 賞与等の不利益算定
  • 人事考課での不利益評価
  • 不利益な配転
  • その他就業環境を害すること

特に配転については、変更前と後の賃金や労働条件、通勤事情、将来に及ぼす影響などを総合的に判断するとされており、通常起こりえる人事異動のルールからは説明できないような変更により、相当程度の不利益を生じさせる場合は違法とされる可能性があるのです。

パタハラトラブル事案

報道各社も取り扱っていますが、実際に次のような事案が2019年現在、進行中の事案としてあります。概要は以下の通りです。

  • 大手スポーツ用品メーカーの東京支社の人事部に勤務する男性正社員
  • 第一子の出生に伴い、約1年の育児休業を取得
  • 復帰後、東京支社から地方(関東圏)の関連会社に出向を命じられ、肉体労働を伴う業務に従事
  • 当該出向は、育児休業法違反であると主張し弁護士を通じ会社と交渉
  • 人事部に配転するも、社内規則の英訳などといった、業務に関連のないような仕事を命じられ、従わなかった場合には、けん責処分とされた
  • 第二子の出生により、再度育児休業取得し、復帰するも、再び英訳などの業務を命じられた

今後の動きとしては、労働者側が主張する「育児休業を取得したことによる関連会社への出向や社内規定の英訳といった本来必要のない業務の命令」が事実であった場合には、育児休業に関する法律に違反する不利益な取扱いであると判断されることが高いと考えられます。

育児休業に関する法律違反となった場合の罰則

育児休業に関する法律に違反することとなれば、行政処分として、是正勧告の対象となり、企業名の公表もしくは20万円以下の過料を命じらる可能性があるのです。

また、パタハラとして民事訴訟を提起されれば、パタハラと判断される取扱いが無効になることにより、業務への復帰やその間の未払い賃金や、慰謝料の支払いなどが命じられる可能性が出てきます。

パタハラに関する裁判事例

過去の裁判例では、育児休業を3カ月取得した男性従業員が、昇給や昇格の試験を受けられないとする運用を行っていた会社に対して、その運用は労働者に対しい不利益な取扱いであり、公序良俗に反するものとして、無効であると判断しました。

まとめ

近年政府は、男性の育児参加を推進していることや、パタハラが世間に認知され始めてきていること、パタハラが違法と判断される裁判例が増えてきているなどといったことから、今後、大企業以外でもこのようなトラブルが顕在化してくることが予想されます。

中小企業、ベンチャー企業でも、パタハラに関する制度の確認が必要になるでしょう。