退職者への競業避止義務が認められるための6つのポイントとは?

退職する従業員から、技術やノウハウが流出することは、企業にとって避けたい事態です。

そのため、従業員が退職する際に、競業避止義務に関する誓約書や契約書を作成することがあります。

競業避止義務とは、平たく言ってしまえば、同業他社への転職や、同一事業の開業などを制限する義務を課すものですが、競業避止義務は、憲法における職業選択の自由の観点から、一概に認められるものではなく、その有効性については、個別の事案ごとにかなりの差があり、過去にはいくつもの争いがありました。

今回は、競業避止義務が有効と判断されるために必要なポイントを、過去の判例をもとに分析をしていきます。

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競業避止義務の有効性の判断基準とは?

残念ながら、競業避止義務が有効と判断されるための明確な基準として設けられているものはありません。

有効と判断されるためには、過去の判例から導き出された次の6つのポイントがあります。

1)企業側の守るべき利益があるか

企業側に、退職従業員に対して競業避止義務を設けることで、守られる利益があるかどうかが問われます。

企業側の守るべき利益とは、不正競争防止法によって明確に法的保護の対象とされる「営業秘密」に限定されず技術的な秘密営業上のノウハウ顧客との人的関係なども対象になることがあるとしています。

ここで言う「不正競争防止法における営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています。

この営業秘密に準じるほどの価値を有する営業方法や指導方法等に係る独自のノウハウについては、営業秘密として管理することが難しいものの、競業避止によって守るべき企業側の利益があると有効であると判断されやすい傾向があります。

2)対象従業員の地位

対象の従業員に対して、合理的な理由なく、従業員すべてを対象にした規定はもとより、特定の職位にある者全てを対象としているだけの規定は合理性が認められにくいとされています。

また、形式的な職位ではなく、具体的な業務内容の重要性、特に会社側が守るべき利益との関わりによって有効か否かが判断されます。

つまり、地位や役職のみをもって競業避止義務が課されるというものではなく、競業避止義務を課すことが必要な従業員であったかどうかが、競業避止義務が有効であると判断されるための要素になるということです。

3)地域的限定の有無

地域的限定の有無とは、制限がある(○○地区、○○県など)又は、制限がない(全国区)競業避止義務を課すことを指します。

地域の限定については、使用者の事業内容(特に事業展開地域)や、職業選択の自由に対する制約の程度禁止行為の範囲との関係等総合的に考慮して、その地域制限設けた競業避止義務の有効性を判断します。

また、地理的な制限がないこと(競業避止義務の対象地域が全国であること)のみをもって、競業避止義務の有効性が否定しない傾向があります。

つまり、総合的に判断し、その競業避止義務が有効と判断されれば、競業避止義務の対象地域を全国とすることも可能であるということです。

競業避止義務の対象地域を限定する場合には、業務の性質等に照らして合理的な絞込みがなされていれば、競業避止義務が有効と判断されることはあります。

4)競業避止義務の存続期間(有効期間)

競業避止義務の効力の期間についてです。

1年以内の期間については肯定的に判断されている判例が多くありますが、2年の競業避止義務期間については否定に判断する判例が多く見られます。

形式的に何年以内であれば認められるという訳ではなく、労働者の不利益の程度を考慮した上で、業種の特徴や企業の守るべき利益を保護する手段としての合理性等が判断されているものと考えられます。

5)禁止する行為の範囲

競業避止義務により、どこまで禁止するかといった問題です。

業界事情にもよりますが、競業企業への転職を一般的・抽象的に禁止するだけでは合理性が認められないことが多いようです。

一方で、禁止対象となる活動内容(たとえば在職中担当した顧客への営業活動)や業務内容、職種等について限定をした場合には、競業避止義務が有効と判断されている判例が多くなっています。

禁止対象となる活動内容や職種を限定する場合においては、必ずしも個別具体的に禁止される業務内容や取り扱う情報を特定することまでは求められていないものと考えられおり、例えば「在職中に担当していた業務や在職中に担当した顧客に対する競業行為を禁止する」というレベルの限定であっても、競業避止義務が有効と判断されていることもあります。

6)代償措置

退職する従業員に対して競業避止義務を課すことにより、職業選択の自由を制限することに対する代償を払うのか否かといった問題です。
代償措置を講じる場合、退職金の上乗せなどが一般的です。

職業選択の自由を制限する以上、代償措置と呼べるものが何も無い場合には、有効性を否定されることが多いようです。

もっとも必ずしも競業避止義務を課すことの対価として明確に定義された代償措置でなくても、代償措置(みなし代償措置も含め)と呼べるものが存在する(高額な賃金や報酬である)場合などには、その有効性について肯定的に判断されています。

まとめ

競業避止義務の有効性については、明確な基準はなく、これらのポイントを総合的に判断した上で、有効なのか無効なのか決められます。
つまり、極端に言えば、対象の従業員ごとに判断が変わることもあるのです。

有効な競業避止義務を課すためには、事案ごとに検討する必要があるのです。