IT・ベンチャー・スタートアップ企業で【年俸制】を導入するときによくある3つの勘違い【2021年12月加筆】

年俸制というと、プロスポーツ選手や外資系企業のイメージが強いですが、中小・ベンチャーでも導入している、または、導入したいという企業が多くなってきているように感じます。

特にIT企業で年俸制を導入する企業が増えているようですが、年俸制を導入する際にはいくつか、法律的に注意しなければならないことがあるのですが、正しい運用をできていない企業が多くあります。

年俸制を導入する際の会社は、どういった点を注意する必要があるのでしょうか?

社労士5000

年俸制の定義

まずは、年俸制についておさらいしましょう。

年俸制では、社員の給与は1年単位で決定します。多くの場合は、前年の成績などにより、翌年の給与を決めることが一般的です。

いわゆる「成果主義型」の給与形態です。

IT系の場合、成果物や目的物が明確である職種のため、特に開発関係の業務従事者には適用がしやすいと考えられます。

年俸制導入のメリット・デメリット

年俸制の会社側のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。

  • 人件費の見通しが立てやすい
  • 社員個人別に目標設定がしやすい
  • 意欲や能力が高い社員を最大限に活用できる

反対に、デメリットとしては、以下のようなことが、よく挙げられます。

  • 人事評価が次年度の給与に直結するため、厳格な評価基準や適正な人事評価が求められる
  • 給与のアップダウンが激しく、社員のモチベーション維持が難しいことがある

年俸制のよくある勘違いとは?

年俸制を導入する会社が増える一方で、制度の内容を勘違いしたまま導入を進める会社も多くあります。

1)年俸額の変更には労働者との同意が必要!

プロスポーツでも「●●円で合意し、サインをした」などというように、労働者の同意があって初めて決定するものです。会社側が一方的に年俸額を決めることは、原則できません。

しかし、万が一、会社と労働者の見解が一致しない場合、翌年度の年俸はどうなるのでしょうか?

こういった場合は、例外的に会社が労働者との合意なしに年俸額を定めることになります。
ただし、次の内容を就業規則で明示しておくことが必要となります。

  • 年俸額決定のための成果・業績評価基準について
  • 年俸額決定手続について
  • 減額の限界の有無
  • 不服申立手続等の制度

これらの内容の定めが公正なものであることが絶対条件となります。仮に争いとなった際には、これらの内容が公正であるか裁判所などが厳格に審査することになります。

これらの制度を設ける際には、制度の内容が、会社側が権利を濫用したものとならないよう、細心の注意を払う必要があります。

上記の制度もないままに、会社側が一方的に減額してしまった場合、又は、次年度の年俸が決まらないまま次年度に突入してしまった場合は、前年度の年俸となります。ただし、労働者側からは上乗せ分について交渉・請求することができます。

2)給与は一括で支払い?

労働基準法では、毎月一回以上、給与を支払わなければならないと定められています。

そのため、年俸制でも労働基準法に準じ、一括払いではなく、最低12か月分に等分して支払う必要があるのです。

賞与を、毎月の給与とは別に支払う場合は、14等分や16等分など、自社に合わせて分割数を決め、12等分は各月の給与、それ以外を賞与として支払うことになります。

3)残業代は支払わなくてもOK!?

年俸制導入で最も注意をしなければならないことは、残業代です。年俸制でも残業が発生した場合は、残業代の支払いの必要があります

しかし、割増賃金の計算が通常とは異なります。

年俸制と月給制では、割増賃金を計算する際の計算根拠が変わってきます。月給制の場合、毎月の基本給を元に考えるのが一般的です。その際、賞与はもちろん含めません。

しかし、年俸制で、賞与が含まれている場合には、賞与分も残業代の計算根拠となります。14等分や16等分で払っていようと、残業計算は12等分で計算されるということです。

賞与分も含めると、通常の月給制に比べて、同じ年収でもひと月の基本給は高くなります。結果、同じ時間残業しても年俸制の方が割増賃金は高くなることがあるのです

年俸制でも固定残業制を導入すると残業代を抑える事ができます。あらかじめ取り決めた固定残業時間とその固定残業第の範囲内であれば、残業代は発生しません。もちろん、固定の残業時間を超えれば通常通りの計算となります。

まとめ

年俸制と聞くと、ざっくり計算の成果主義型というイメージがあまりに強いですが、かなり細かい規定があり、作っておかなければいけないルールなども多くあります。

成果が芳しくない場合も、大幅な減額ができるわけでもなく、毎月支払いをして、残業代も支払わなければならないとなると、会社側にメリットがあるか否かは、導入前にしっかりと確認する必要があります。

導入を検討されている、または、既に導入している企業は、メリット、デメリットを含め、今一度見直してみてはいかがでしょうか。

YouTube動画でも、解説していますので、是非ご覧ください。