年俸制などの新たな給与制度を導入する際の法律上の注意点【2020年11月加筆】

社労士5000

企業にとって、大切な給与制度

人不足と言われている中、従業員のモチベーションを上げて、定着してもらうためには、給与制度の構築が必要です。

給与は、社員にとって生活の基盤となるものであることから、企業側のメッセージが最も明確に伝わりやすく、モチベーションを左右する最も大きな要素の1つといえます。

そこで、今回は、社員のモチベーション向上につながる給与制度として、次の2つについて解説をしていきます。

  • ボーナスの比重を大きくするボーナス重視型
  • 個人の成果によって年収が変わる年俸制

ボーナス重視型の給与制度

ボーナス重視型の給与形態とは、社員個人に対する1年間の総支給額のうち、月額固定給の割合を下げて、ボーナスの比重を上げた給与形態です。

月額固定給である基本給は、会社の業績や、社員の頑張り、業務成績などにかかわらず毎月一定に支給されるものですが、ボーナスは、会社の業績と個々の社員に対する評価に応じて、支給の有無や支給金額が変わります。

よって、社員の頑張りや業績、貢献度などを給与額に反映させやすくなるのです。

これにより、社員Aは、自分の頑張りが認められ、評価されているのだということが明確になるため、モチベーションが向上します。一方で、社員Bにおいても、勤務成績や組織内貢献の面でもっと頑張らないと、評価してもらえないのだということを認識できるため、モチベーション向上のきっかけになり得ます。

年俸制の導入

年俸制は、1年分の給与額をあらかじめ合意しておく給与形態で、通常は、1年単位で目標管理制度を導入し、その目標の達成度を評価して次年度以降の年俸額を決定することになります。

このような年俸制を導入した場合、1年分の給与についてあらかじめ合意している以上、年の途中で、会社側が一方的に年俸額を変更することは原則としてできない点には注意が必要です。

年俸制の導入する際には、評価の方法をきちんと明確にすることが必要です。

  • こういうことをしたら、来年の給料が上がる
  • こういうことをしたら、来年の給料が下がる

このような目標を設定して、社員のモチベーションを上げることが必要なのです。

また、年俸制を取る場合、基本給と付加給というように、2つに分け、基本給を固定額とし、付加年俸を業績に応じて変動するボーナスのような建て付けにすることがあります。こうすることで、年俸制でもボーナスと同様のインセンティブ効果を与え、かつ、付加給部分を割増賃金の基礎に加えないようにすることができます。

なお、年俸制についてもう1つのよくある間違いとしては、年俸制をとると割増賃金が発生しない、というものです。しかしながら、年俸制をとったとしても、それだけで割増賃金の支払いを免れるというわけではありませんので、十分に注意して下さい。

給与制度導入に当たっての注意点

上記のような給与制度を新たに導入する場合の注意点を以下に解説します。

労働条件の不利益変更に当たるか

上記のような給与制度を導入する場合に、社員によっては、従前の月給型のときよりも給与額が減ってしまう可能性があります。

この場合、労働条件の不利益変更に当たり、法律上、適切な手続を経なければ違法・無効となってしまう可能性があります。

労働条件の不利益変更については、社員の個別同意を取得することが原則となります。

この同意は、後にトラブルとならないよう、書面で取得するのがよいでしょう。

一方、すでに社員を多数抱えており、個別の同意を得ることが難しいという場合には、就業規則の変更という手続によることも可能です。しかし、就業規則は自由に変更できるわけではなく、その変更が合理的なものでなければなりません。

最低賃金を下回らないようにする

当たり前の話ですが、新たな給与制度が、最低賃金を下回らないようにすることが必要です。

当たり前だろと思うかもしれませんが、例えば、基本給の比重を下げた場合に、基本給の額が最低賃金を下回る場合には違法となってしまいます。

また、年俸制にしても、年間所定労働時間数で割った1時間当たりの給与額が最低賃金を下回ることはできませんので、注意しましょう。

評価制度の明確性

どのような評価制度でも、どのようなことをすれば、給与に反映されるのかを明確にしないと、社員のモチベーションは低下し、混乱を引き起こします。

評価制度の公平性も重要です。会社としては、どのような給与制度にするかを明確にする必要があるのです。