残業している社員には割増賃金の支払い義務がある。ただし例外もある【裁判例あり】【【2022年2月加筆】】

割増賃金は、従業員が残業をしている企業であれは、原則支払う必要がありますが、正しく制度を実行していますでしょうか。

今回は、割増賃金の制度を、判例と併せて見ていきます。

社労士5000

労働基準法による割増賃金の規制

労働基準法37条では、使用者は、法定時間外労働をさせた場合や休日労働、深夜労働をさせた場合には、割増賃金を支払う義務があるとしています。

具体的には政令により以下のように定められています。

  • 1ヶ月の時間外労働が60時間以内→25%以上の割増賃金
  • 1ヶ月の時間外労働が60時間以上→50%以上の割増賃金
  • 休日労働→35%以上の割増賃金

また、同条4項では深夜労働(午後10時~翌朝午前5時)の場合には、深夜割増として25%の割増賃金を支払うよう定められています。

なお、そもそも違法な時間外労働(36協定が無いなど)である場合にも割増賃金の支払い義務は免れないとされています。

割増賃金の算定方法

割増賃金の算定は【通常の労働時間の賃金×上記割増率】で算出できます。

  1. 通常の賃金の総額÷1ヶ月の平均所定労働時間=1時間あたりの賃金
  2. 1時間あたりの賃金×上記割増率×時間外労働時間=割増分の賃金

出来高払制や歩合給制の場合も同様です。

参考例

例)月の通常の賃金が30万円、月の労働時間が200時間、その内残業が30時間の場合

30万円÷200時間=1500円/時間
1500円×25%×時間外労働30時間=1万1250円(月の割増賃金)

企業独自の賃金制度

企業の中には、上記のような労働基準法37条の割増賃金制度とは異なる賃金体系を定めている場合もあると思います。

たとえば「みなし残業代」や「定額残業代」など制度を定めていた場合、割増賃金の有効性はどのように考えるのでしょうか。

これについて判例は、労働基準法37条で定められている割増賃金分の支払いが保障されているのであれば、それと異なる企業独自の賃金制度を採用しても有効であるとされています。

判例から見る割増賃金

タクシー会社の運転手14人が、歩合給から残業代を差し引く賃金規則は無効であるとして、差し引かれた分の未払賃金の支払いを求めた事件です。タクシー会社は、運転手らへ以下のような待遇としていました。

  • 賃金規則上では形式的に時間外手当が支給
  • 時間外手当が発生した場合、その分歩合給から減額して合算

これは、実質的には時間外手当が支払われていないのと同等で、残業代がいくらになっても合計支払額が変わらない仕組みであり、何時間残業したとしても給料総額は同じということになります。

このような歩合給から時間外手当相当分を減額する賃金体系は、労働基準法に違反し無効であるとして運転手らは提訴しました。

一審二審は労働基準法の割増賃金の条項(37条)の趣旨および公序良俗に反することから、この賃金体系は無効と判断し原告が勝訴しました。

しかし、最高裁では一転、以下の理由から、審理不十分として差し戻しとする判決を下しました。

  • 残業分を歩合給から控除する算定方法は無効とまでは言えない
  • 通常の賃金と割増部分を明確に判別できるか否か、できる場合に労基法所定の割増額を下回らないか」の上記判例の基準にそった有効性の審理が十分ではない

これを受け差し戻し審では「残業分を歩合給から控除する算定方法」は合理性が認められ有効、結果として原告敗訴となりました。

まとめ

固定残業制などの労働基準法37条の割増賃金制度とは異なる賃金体系を採用している場合や、これから採用する場合には、トラブルの種が潜んでいる可能性が大いにあります。

独自制度の導入の際には、判例などの情報も確認をし、適法な手続きであるかをよく検討してから進める必要があるでしょう。