労働局はSES事業者に対して、定期的に申告(通報・タレコミ)があれば、偽装請負に関して調査を行います。
その調査では、労働局の需給調整事業部(業務委託や派遣に関する適正運用や偽装請負等をつかさどる部署)が、SES事業の実態について、書類や聞き取り(面談形式)などから偽装請負といえるのか否かを判断します。
書類提出については、社内であらかじめ準備を行う事が出来ますが、調査当日の質問内容がどんなものであるかは、経験談を聞かない限り事前にどんなものであるか知る事が出来ません。
今回は、そんな労働局によるSES事業に対する調査の際に、実例をもとに一般的にどのような質問をされるのかを解説していきます。
調査の流れ
詳細は、別の記事にも記載をしていますが、当日までの大まかな流れは以下の通りとなります。
- 労働局が面談の日程を通知
- 事前に、業務委託・派遣・出向労働者一覧を労働局に送る
- 労働局が一覧の中から2、3名ピックアップし、当日、担当官が対象者の各種書類を元に質問を行う
調査当日に提出する書類は労働局の担当者が持ち帰るので、提出の際には写しを提供します。
過去の事例から見る、質問の内容とは?
1)会社概要
まずは会社概要の確認から行う事が一般的です。例えば次のような質問です。
- 正社員と有期雇用契約の社員の割合は?
- 事業形態とメインの事業は?
- 事業内容の内訳と割合は?
- 一般派遣の資格を所持しているかどうか
- 派遣を受け入れているかどうか
- 仕事をどのようにして受け入れているか
多くの企業では営業担当者か、事業主自ら仕事を受託するかと思いますが、労働局は質問を通して作業者が自ら営業を行い、発注者からの面接などを受けていないかどうかをチェックしていると考えられます。
業務委託の契約では、作業者の選任(面接など)は、発注者側で行うことができない事項であるため、受託者側(SES事業者側)が選任を行なっているかどうかの確認をしているのでしょう。
2)労働者の実態調査
会社概要の確認後は事前にピックアップされた労働者ごとの質問が行われます。
ここからは、さらに踏み込んだ質問を行います。ここでのポイントは、「指揮命令」と「労務管理」の事実確認です。
ピックアップされた労働者ごとに質問内容は変わりますが、以下のような項目について質問が多くされています。
- 発注の経緯
- どのように受注案件の内容を把握しているか
- 当該案件に下請けがいるかどうか
- 就業地はどこか
- 社会保険、労働保険に加入しているか否か
- 事前面談などを行っているか
- 行っている場合、いつ、だれが、どんな話をしているのか
- 就業先の部署やチームの編成
- チーム編成を自社で把握しているか
委託者側による人員の選定はできないため、労働局は面談・面接などは必要ないと考えています。職務経歴書や決定通知書など、委託者側が選定を行っている事がわかると、偽装請負の一部として判断される可能性があります。
また、以下のような質問では、現場で指揮命令が行われていないか確認しています。
責任者がいない、仕様書・指示書がない、となると、担当官は現場での直接の指揮命令を疑います。
- 誰が現場のリーダーをしているのか
- 自社、クライアント双方に現場責任者などはいるのか
- 現場で直接指揮命令は出ていないか
- 指揮命令は、請負事業主もしくは現場責任者を経由して行われているか(現場で直接の指揮命令は出ていないか?)
- 仕様書、指示書の有無
- 業務の完了確認の方法
- 仕様変更などがあった場合の対応
- 作業場所の状況(名札やロッカー、常駐先社員との場所は別か、など
調査当日には指摘されなくても、受託者の契約相手に対して後から行われる反面調査や、作業者本人への聞き取り調査で直接の指揮命令が確認された場合には、偽装請負の一部として是正の対象となります。
作業場所の状況については、指揮命令や労務管理ほど厳重な対策は求められません。労働局のガイドライン等では、クライアント社員と常駐の自社社員とを明確に区別できるような対策が施され、直接指揮などが発生しないよう配慮していることが望ましいとしています。
さらによく聞かれる質問事項としては、労務管理の方法などがあります。
自社の社員は、自社で管理することが大原則であるため、クライアントが出勤・休日に関して管理や許可をしているなどということになれば、これも偽装請負の一部として是正の対象となるでしょう。
質問事項としては、次のようなものがあります。
- 勤怠管理や休暇の許可はどの様に行うのか
- 休暇について、クライアントへの報告や許可は必要か
- クライアントに職務経歴書などは出しているのかどうかとその理由
3)その他の質問事項
上記の質問の他に、最近では直近の採用に関する事項を聞かれることがあります。次の項目が質問の事例として挙げられます。
- SESを行う際の勤務地を事前に説明しているか
- 契約内容を、あらかじめ明示しているか
- 固定残業制の者の有無とその人数
- 従業員から苦情の有無
直接偽装請負に関連する部分ではありませんが、SES事業の作業者は殆どの場合、自社とは違う場所で作業を行いますが、面接時にきちんと明示されているかを確認する事が多いようです。
申告(タレコミ・通報)による調査
通報者からの申告から調査が始まるパターンでは、労働局は事前に通報者から資料を得ている場合や、時には社内文書(マニュアル・メールのやりとりの写しなど)も通報者から入手している場合があります。
当日は、まずあらかじめ提出予定の書類の精査・質疑から始め、その後に申告内容に関する質疑を行います。
その際、労働局は申告による調査かどうかについては言及せず調査を進めます。
労働局は前半で提出書類を元にした質問の回答と、通報者から提供された情報を照らし合わせ、齟齬がないかどうか確認しているのです。
事案によって大きく異なるので、一例として紹介します。社内文書の事実確認に加えて当日事業所から受け取った書類と、事前に入手していた書類の整合性について問われます。
- 社内マニュアルなどの有無・内容について
- 内部資料の特定の項目に関する事実確認と、内容確認
- メールのやり取りと、書類に関する質問との整合性
- 〇〇というルールがあるが、なんの為にあるのか?
調査を受ける際、申告による調査か定期調査かを判断することは難しい為、申告による調査の可能性を考えて対応する必要があります。
質疑の後、話の齟齬を取り繕うのは心証が悪く、さらなる追及を受ける場合があることから、早期解決のためにも、事実のとおり伝えることが良いと思います。
調査当日のNG対応
他のSES関連記事でも記載をしていますが、事実の隠蔽(書類の改竄・虚偽の回答)は絶対にしてはいけないNG対応です。
事実の隠蔽が明らかになった場合、通常1回目の調査では課されない処罰(罰金)や、社名の公表などの重い処分が下されるリスクが非常に高くなります。
仮に、調査当日のその場は乗り切ったとしても、後日行われる反面調査や労働者本人への聞き取り調査で、実態が明らかになります。調査当日は事実を伝えるよう心がけましょう。
調査が終わったら
調査自体は2時間ほどで終了します。調査の結果は、是正の有無も併せて1、2ヶ月後に書面で通知されます。
この1、2ヶ月の間に、クライアント側にも調査を行い(反面調査)、是正がある場合は最終的に是正勧告が行われます。
まとめ
調査で大事なことは誠実な対応です。質問攻めに合うわけではなく、事実の確認を行いながら和やかに進む事がほとんどですが、もちろん違反の有無については細かい所まで目を光らせています。
違反があっても、即刻、罰金や社名公表などの社会的制裁を受けるということではないので、できるだけ穏便に乗り越えるには、まずは悪い印象を持たれる事がないように心がけましょう。