請負?準委任?「業務委託契約書」の見分け方【2022年7月加筆】

派遣と業務委託

人手が不足していたり、専門的な業務を依頼したいときは、その業務を外部に委託することで、目的を達成させようとするが多くあります。

いわゆる「業務委託」というものです。

業務委託とは、自社外に業務をさせることの総称を言い、法律的には、大きく分けて「請負」と「準委任」による業務委託が存在し、どちらに該当するかは、任意に決められるものではなく、契約の内容や、運用の実態から判断されることになります。

特にIT業界では、専門分野が多岐にわたることから、請負である場合や準委任である場合と委託内容や時期に応じて、どちらの契約も頻繁に利用されますが、契約書の名称を「業務委託契約書」としていることが多く、請負なのか準委任なのか分からないことがよくあります。

もし何かしらのトラブルへと発展してしまった場合、契約書の内容によっては、請負のつもりだったとしても準委任と判断されたり、その逆として判断され、大きな損害を被ってしまうことも少なくありません。

今回は、準委任契約と請負契約の見分け方について見ていきます。

社労士5000

「業務委託」は総称

上記でも述べたとおり、「業務委託」とは準委任や請負の総称です。それぞれには次のような特徴があります。

請負とは

請負とは、依頼された仕事を完成させることを目的とし、それに対し報酬を支払う契約形態を指します。

IT業界では、システム開発などで用いられることが多くあり、以下のような特徴があります。

  • 委託者は、受託者に対し指揮命令をすることができない
  • 原則、業務が完成しなければ、報酬は貰えない
  • 完成物に対して責任を負う(瑕疵担保責任)

準委任とは

準委任契約とは、請負と違い、依頼された仕事の完成を目的としたものではなく、業務を遂行すること自体を目的とし、その完了をもって報酬を支払う契約形態を指します。

IT業界では、システムの運用や保守などでよく用いられます。特徴としては、以下のようなものがあります。

  • 発注者は、受託者に対し指揮命令をすることができない
  • 委託業務が完成しなくても、原則、報酬は貰える
  • 完成物とうに対する責任はないが、通常考えられる注意をもって業務に取り組む義務がある(善管注意義務)

請負と準委任では、このような違いがありますが、似ている様な個所もあることから、単に、「業務委託契約書」といった名称の契約書では、どちらにも捉えることができてしまうのです。

「業務委託契約書」の見分け方

「業務委託契約書」というような名称での契約書が、請負なのか準委任なのかを見分けるポイントとしては、次のような個所があります。

(1)具体的な完成物があるか

請負契約では、委託業務の完成を約すことから、当然、何らかの完成物があることになります。

しかし、準委任契約では、業務の遂行自体が契約の目的であるため、完成物はありません。

何らかの完成物を納品することが目的となっているような内容の契約書の場合は、請負契約と判断することができます。

(2)報酬の決め方

「完成物を納品した場合に、報酬を支払う」といった内容の契約であれば、当然、完成物が必要になることから、請負の契約と言えます。

反対に、完成物の納品などはなく、期間が終了した段階で報酬が支払われるような内容の契約であれば、完成物が目的とは言えず、準委任による契約と判断できます。

(3)報酬の支払い時期

完成物の納品と引き換えに、報酬を支払うというような内容であれば、報酬を得るためには完成物を必要とするため、請負の契約であると判断されます。

反対に、期間の終了などにより報酬を支払うというような内容であれば、完成物がなくても報酬は支払われることから、準委任による契約であると言えます。

(4)瑕疵担保責任など成果物の保証に関する条項の有無

瑕疵担保責任は、完成物に対する責任であることから、請負契約である場合にしか適用はされません。
よって、瑕疵担保責任の条項がある場合には、基本的には請負契約であると判断できます。

ただし、準委任契約を目的としていても、複数取引の基本となる契約(基本契約)である場合、請負契約による個別の発注があることも想定し、瑕疵担保責任の条項を設けている場合がありますので、瑕疵担保責任の条項がある=請負契約、ではないこともあるという点に注意が必要です。

(5)検収に関する条項の有無

検収は、完成物を納品前に要件に適合しているか検査をするための項目であることから、本来、請負契約による場合には設けられる条項となります。

そのため、検収の項目がある場合は、原則、請負契約によるものと判断されますが、上記④同様、例外として、準委任契約を目的とするものであっても、基本契約である場合には、請負契約による個別の発注があることも想定し、検収の項目が設けてあることがありますので、注意が必要です。

(6)契約書のタイトル

もちろん、契約書のタイトルが「請負契約書」「準委任契約書」となっていれば、第一印象としては、分かりやすいことは確かです。

ただし、請負契約と判断されるか、準委任契約と判断されるかは、契約書のタイトルではなく、上記のような契約の中身により決まるものであるため、タイトルだけ整えればいいと言うことではないことに注意が必要です。

まとめ

業務委託契約が、請負であるか準委任であるかは、その中身によって総合的に判断されます。

あいまいな表記により請負なのか準委任なのか、といったトラブルが発生しないよう、それぞれの特徴を理解しておくことが重要となるのです。