SES事業者が請負契約をするときに注意すべき準委任契約との違い【2022年1月加筆】

派遣と業務委託

近年、SES事業に参入するIT企業が多く見受けられます。弊所のクライアントでも、新たにSES事業を展開したいといったお話をよく伺います。

一方で、労働局による請負や準委任など業務委託の契約における派遣法の違反、いわゆる「偽装請負」の取り締まりの調査も、ここ数年増加しているように感じます。

警察の交通安全週間のような大々的な宣伝こそしていませんが、数年前に比べ、その取り締まりが厳しくなっていることは確かです。

根本的なIT業界の人手不足や特定派遣の終了などにより、SES事業に参入する事業者が増えていることが背景にあると考えられます。

そんな中、既にSES事業を行っている企業が、取り締まりの強化からか、SESによる準委任契約の受託から、請負契約による業務の受託を拡大したいという相談を受けることが増えてきています。

業務委託契約としてひとまとめに考えられがちな準委任契約と請負契約ですが、請負契約とされるためには、いくつかの要件があります。

SES事業者が、請負契約による受託する際に注意しなければいけない事とは、どういったものがあるのでしょうか。

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SES契約(準委任契約)と請負契約の違い

業務の一部または全部を、他社に依頼をする場合、まるっと「業務委託契約」とまとめられがちですが、詳細には、SES事業は「準委任」による業務の受託となります。

請負」による業務の受託とは、次のような違いがあります。

準委任とは

法律事務に関する委託を「委任」と言い、それ以外は「準」委任となる。

契約の目的:業務の処理

受託者の責任:手抜きやミスをしないといった、善管注意義務がある。

成果:成果はあるが、完成に責任を負わない。

請負とは

契約の目的:仕事の完成

受託者の責任:瑕疵担保責任がある。

成果:完成に責任を負う。

請負契約の要件

請負も準委任も大きく見れば業務委託ですが、請負契約とされるためには、次の4つの要件を満たしている必要があります。

  1. 作業の完成について事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負うものであること
  2. 作業に従事する労働者を指揮監督するものであること
  3. 作業に従事する労働者に対し,使用者として法律に規定されたすべての義務を負うものであること
  4. 自ら提供する機械,設備,機材,もしくはその作業に必要な材料,資材を使用し又は企画もしくは専門的な技術もしくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであり,単なる肉体的な労働力を提供するものでないこと

請負としての契約をする際の契約書の内容や契約後の実態として、これらの要件を全て満たしていれば、請負として認められるのです。

企業としては、同対策したらいいのか

では、これらの要件を満たすために、具体的にはどう対応すれば良いのでしょうか。

(1)「仕事の完成」「瑕疵担保責任」の義務を負う契約内容であること

契約書に「仕事の完成責任」「瑕疵担保責任」に関する条項を入れるといった対応が考えられます。

(2)作業に従事する労働者に対し、自社が指揮監督する契約であること(派遣の様に、委託者が業務指示をしないこと)

契約書には、委託者が指揮命令するなどといった条項が入らないようにし、実態としても委託者からの指揮命令がないようにする、といった対応が必要になります。

(3)作業に従事する労働者に対する労務管理、人員配置、作業工程管理など、仕事を完成させるために必要な全てのことを、自社で行っていること(委託者が労務管理や指示を行うといった条項や実態がないこと)

契約書には、委託先従業員の管理や指示、作業工程管理や指示などに関する条項が入らないようにし、実態としても委託者からの管理や指示がないようにする、といった対応が必要となります。

(4)材料や必要機材は受託者が用意し、受託内容が単なる肉体的な労働力を提供するものでないこと

契約書上では、材料や必要機材は受託者が用意するといた内容とする。

委託業務が、単純作業などの労働力の提供とならないようにする、などといった対応が必要になります。

注意しなければならないのが、書類上は要件を満たしているように見えても、実際の現場において、要件が満たせていない場合には「偽装請負」などと判断される可能性があります。

偽装請負としての罰則や契約トラブル

もし、請負の要件を満たしておらず、実態が「偽装請負」と判断されるようなことになれば、最大1年の懲役、または100万円以下の罰金が科される可能性があります。

さらに、労働派遣法ということで、社名が公表されることもあります。

また、「準委任」か「請負」かが不明確であったり、要件などが不足していた場合には、過剰な責任を負うこととなってしまったり、反対に、必要な責任を負ってもらえなかったりといった契約トラブルが発生してしまうことが考えられます。

まとめ

既にSES事業を行っている企業で、請負契約による受託も進めようとする企業の中には、SESの際の準委任の契約書をそのまま流用したり、瑕疵担保責任や検収などの項目だけ追記した程度の契約書により請負契約を行っている場合もありますが、請負契約と判断されるためには、これだけの対応が必要となります。

同じ業務委託という括りではありますが、その内容は大きく異なり、安易な流用による乗り換えは、非常に危険です。

もしトラブルになった際、自社に有利な状況とするためには、それぞれにおいて、正しい運用を行っている必要があることに注意しましょう。