SES事業者が知っておくべき偽装請負にならない対応策とは?厚生労働省のガイドラインから読み解く【2022年1月加筆】

派遣と業務委託

労働者派遣業務委託請負準委任)事業を行う事業者には、偽装請負にならないよう注意することが多くあり、厚生労働省や労働局もガイドラインを作成し、正しい運用を促しています。

ガイドラインにはQ&A形式なども用いられて記載をされていますが、実際現場ではどういった部分がSES事業に関連があるのかが分からない、という話をよく耳にします。

今回は、当該ガイドラインの偽装請負に関するQ&A部分について、特にSES事業者に関連がある項目をピックアップし、回答の要約・解説をします。

お役所が出すのガイドラインやQ&Aをより理解するには、何が主語であるかを意識すると理解しやすくなります。

特に、業務委託関連の話では、主語が発注者(委託者、クライアント側)なのか、請負事業主(受託者、SES事業者側)なのか、請負労働者(作業者)なのかで、大きく話が変わりますので、注意して見てみましょう。

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Q1:管理責任者の兼任

請負事業主の管理責任者が作業者を兼任する場合、管理責任者が不在になる場合も発生しますが、請負業務として問題がありますか?

A(要約)

  • 作業者兼責任者は、原則OKだが、作業者が1人しかいない場合で当該作業者が管理責任者を兼任している場合には、偽装請負と判断されることがある
  • 管理責任者不在時には、代理の者を選任しておけば、OK
  • 業務の都合上、管理業務ができていない場合には、偽装請負と判断されることもある

解説

通常、指揮命令は会社間でやり取りを行いますが、業務の簡略化のため、現場責任者間で行う場合があります。

請負事業主(受託者)の管理責任者は、会社に代わり、作業場での指示、労働者の管理、発注者との注文に関する交渉等の権限を有します。

作業者であり責任者である(兼任する)こと自体はOKですが、、作業者が1人の場合や、管理業務がおろそかになっている場合には、発注者から直接の指揮命令があると判断される可能性があります。

Q2:管理責任者の不在等

請負労働者が発注者の事業所で1人で請負業務を処理しています。そこには、請負事業主の管理責任者は常駐しておらず、請負労働者や発注者との連絡調整のため、必要に応じて巡回して業務上の指示を行っていますが、請負業務として問題がありますか?

A(要約)

  • 作業場に労働者が1人しかいない場合は、作業者兼責任者(兼任)はNG
  • 管理責任者が指示、労働者の管理等を自ら的確に行っている場合には、常駐じゃなくてもOK

解説

Q1同様、作業者1人の現場で管理責任者兼任はNGですが、指揮命令・労務管理等がしっかり受注者側でされていれば、責任者は常駐である必要はありません。

営業担当者などを責任者とするケースなどがよく見受けられます。

管理責任者を常駐させないケースの場合は、管理責任者の不在時であっても、発注者による指揮命令・労務管理等が行われないような管理体制や発注者との情報共有などを行っておく必要があります。

Q3:作業工程の指示

発注者が、請負業務の作業工程に関して、仕事の順序の指示を行ったり、請負労働者の配置の決定を行ったりしてもいいですか。また、発注者が直接請負労働者に指示を行わないのですが、発注者が作成した作業指示書を請負事業主に渡してそのとおりに作業を行わせてもいいですか?

A(要約)

  • 発注者が、仕事の順序・方法等の指示、請負労働者の配置、請負労働者一人ひとりへの仕事の割付等を決定したりすることは、偽装請負と判断される
  • 上記は口頭に限らず、文書の場合にも偽装請負と判断される

解説

作業指示や労務管理などが、どちらの権限に基づいて行われるか、といった項目です。請負事業主は、作業指示や労務管理などを発注者からは独立して(自ら)行う必要があります。

それは、口頭だけにとどまらず、書面によるものも含まれます。

発注書仕様書指示書などに詳細な手順などがある場合には注意が必要です。

作業の依頼内容が「○○システムの開発」などですと、あまりに広範囲過ぎるため、現場での指示が疑われますが、かといって、素人でも作業できてしまうような詳細過ぎる依頼内容の場合でも、単なる労働力の提供として偽装請負の一部とみなされてしまう可能性があります。

明確な基準はありませんが、作業者がその仕様書や指示書を見て、自分の考える工程で作業ができるのかが一つポイントとなります。

Q4:請負業務において発注者が行う技術指導

請負労働者に対して、発注者は指揮命令を行ってはならないと聞きましたが、技術指導等を行うと、偽装請負となりますか?

A(要約)

  • 次の例に該当するものについては、当該行為が行われたことをもって、偽装請負と判断されない。
    ア 請負事業主が、発注者から新たな設備や改修された設備等を借り受けた後、初めて使用する場合、当該設備の操作方法等について説明を行う際に、請負事業主の監督の下で労働者に当該説明を受けさせる場合
    イ 新製品の製造着手時において、仕様等の補足的な説明を行う際に、請負事業主の監督の下で労働者に当該説明(資料等を用いて行う説明のみでは十分な仕様等の理解が困難な場合に特に必要となる実習を含みます)を受けさせる場合
    ウ 発注者が、安全衛生上緊急に対処する必要のある事項について、労働者に対して指示を行う場合のもの

解説

ア、イ、ウに該当する技術指導なら、問題ありません。

ア、イに関しては、請負事業主の監督の下で行なう必要があります。

Q5:請負業務において発注者が行う技術指導

製品開発が頻繁にあり、それに応じて請負業務の内容が変わる場合に、その都度、発注者からの技術指導が必要となりますが、どの程度まで認められますか?

A(要約)

  • 業務の変更であれば、発注者から作業者への直接の指示は、当然NG(会社間、責任者間のやり取りが必要)
  • Q4ア又はイに準じて技術指導を受けるのであれば、OK

解説

業務の変更に関しては、作業者への直接の指示は偽装請負にあたりますので、請負事業主(作業責任者)を通して行う必要があります。

技術指導として行うのであれば、Q4ア又はイの遵守が必要です。

Q6:作業場所等の使用料

発注者の建物内において請負業務の作業をしていますが、当該建物内の作業場所の賃貸料や光熱費、請負労働者のために発注者から提供を受けている更衣室やロッカーの賃借料についても、別個の双務契約が必要ですか?

A(要約)

  • 原則として、次のいずれかであることが必要
    1. 請負事業主の責任と負担で、機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く)又は材料若しくは資材を準備し、業務の処理を行う
    2. 企画又は専門的な技術若しくは経験で業務を処理する
  • 1の場合に、請負業務の処理自体に直接必要とされる機械、資材等を発注者から借り入れたり、購入したりする場合は請負契約とは別個の双務契約が必要
  • 請負業務の処理に間接的に必要とされるもの(賃貸料、光熱費等)、その他(更衣室やロッカー)については、別個の双務契約までは不要で、利用を認めること等について請負契約中に包括的に規定されていれば問題ない

解説

SES事業ではPCの貸与などがありますが、これは原則的に言えば別途双務契約が必要です。

ただ、別途双務契約としなかったからと言って、直ちに偽装請負になることはありません。

指揮命令や労務管理の違反に比べて軽微な違反として扱われることが多いため、対策の優先度としては低いものと考えられます。

Q7:打ち合わせへの請負労働者の同席等

発注者との打ち合わせ会議や、発注者の事業所の朝礼に、請負事業主の管理責任者だけでなく請負労働者も出席した場合、請負でなく労働者派遣事業となりますか?

A(要約)

  • 管理責任者自身の判断により、請負労働者が同席すること自体はOK
  • 打ち合わせ等の際、発注者からの作業の順序や従業員への割振りなどの指示がある場合には、偽装請負と判断される

解説

発注者から直接指示が出ていなければ、作業者の打ち合わせ同席もOKです。

直接の指示は当然ですが、間接的な指示が発生しないようにも注意が必要です。

Q8:情報漏洩防止のための誓約書の提出

請負業務の実施に当たり、情報漏洩防止のため、発注者が、請負労働者から請負事業主あての誓約書を提出させ、その写しを発注者に提出するよう求めることは可能ですか?

また、請負事業主の業務遂行能力の確認のため、請負労働者に職務経歴書を求めたり事前面談を行ったりすることは可能ですか?

A(要約)

  • 発注者による請負労働者の選定につながるものでなければ、情報漏洩防止のため、請負労働者の請負事業主あての誓約書の写しを求めてもOK
  • 発注者が請負労働者の職務経歴書を求めたり事前面談を行うことは、原則NG
  • 職務経歴書の提出や事前面談の結果、発注者が特定の者を指名や拒否をした場合、発注者が請負労働者の配置等の決定及び変更に関与していると判断される(=偽装請負があったと判断)

解説

発注者が、作業者を選定することはできません。発注者の依頼は「業務の委託」であって、「労働者の提供」ではないからです。

面接という言葉は使わないものの、事前面談などの名目で行うSES事業者は多くいますが、労働局は実態をもとに偽装請負の有無を判断します。そのため、事実上面接と同じと判断されれば、当然指摘の対象となります。

回答を見る限り、特に職務経歴書などは、労働者の選定に他ならないというのが、労働局の考えのようです。請負事業主が自ら労働者を決定しているのであれば、誓約書などは問題ありません。

Q9:発注者による請負労働者の氏名等の事前確認

発注者の社内セキュリティー規定により、発注者の施設内に入場する請負労働者の 氏名をあらかじめ請負事業主から提出させ、発注者が確認することは問題がありますか?

A(要約)

  • 発注者による請負労働者の選定につながるものでなければ、施設の保安上の理由や企業における秘密保持等、発注者の事業運営上の理由などで、従事予定労働者の氏名をあらかじめ発注者に提出することはOK
  • 請負事業主から発注者へ請負労働者の氏名等の個人情報を提供する際には、個人情報保護法等に基づく適正な取扱(例えば、あらかじめ請負労働者本人の了解を得る等)が必要

解説

Q8と同様、労働者の選定に繋がっていなければ、事前情報の共有は可能です。

まとめ

偽装請負の判断は労働局の裁量によって決められます。

そこに明確な基準はなく、書類の有無だけではなく実態を含めた総合的により勘案するものとされています。

派遣や業務委託を含むSES事業を行う際には、ガイドラインや通達に注意して運用するようにしましょう。