SES事業を行う経営者からすると、いかに正しく行っていると思っていても「労働局の調査」と聞くと、不安になってしまうかもしれません。
労働局の行う偽装請負の調査は、必ずしも違反があることが前提ではなく、定期の調査である場合や通報・タレコミなどの申告によって行われます。
そのため、どのような事業者でも調査対象になりえるのです。
では、実際に労働局の調査通知が来た場合、どのような対応をするべきなのでしょうか?
調査の流れ
偽装請負の調査は、労働局・事業者が次のような作業を行います。
- (労働局)調査を行う旨の事前連絡
- (労働局)調査を行うための正式な通知(書面)
- (事業者)全ての業務委託、派遣、出向等による作業者一覧を労働局へ報告
- (労働局)全ての業務委託、派遣、出向社員から、2,3名をピックアップ
- (事業者)対象者の関連書類の準備、状況の確認
- (労働局)調査当日の質疑応答
- (労働局)処分の検討・決定
- (事業者)是正に対する対応・報告
調査当日は、事前に提出した作業者一覧から無作為に2、3人分が選別され、対象となった作業者の書類をその場で精査するという形で行われます。
労働局からの通内内容はどのようなものか
多くの場合、事前に調査をする旨の電話連絡があり、その後一般的に以下のような内容の通知が送られてきます。
- 調査の日程(一般的に書面通知から1ヶ月後くらい)、担当官
- 調査当日に用意しておくべき書類
- 事前に提出しなければならない書類について(作業者(業務委託、派遣、出向)の一覧)
調査当日までに、事前に提出した作業者一覧から無作為に2、3人分を指定し、対象となった作業者の書類を調査当日にその場で精査するという形で行われます。
対象者の選別は、作業者一覧を提出した後に連絡があります。「当日は、○○さんと、××さんと、△△さんの分の書類をご用意ください。」といった形で指定されます。
事前に提出が必要な書類のための情報の集約
事業者として最初に行うことは、全作業者について事前に報告する必要があるため、普段それぞれの担当者が対応しているそれぞれの案件の情報を集約する必要があります。
提出期限の変更は一般的には認められないため、多くの作業者を抱えている業者の場合は対策本部などを立ち上げるなどの対策を講じ、期限内に提出できるよう努めましょう。
提出期限に間に合わなかったり、何度も期限の変更を依頼したりすると当然ですが担当官の印象が悪くなりますので注意しましょう。
一覧の作成方法
通知書に作成方法が記載されているので、それを参考に作成します。主に以下を記載することになります。
- 作業者氏名
- 契約形態
- 就労期間(クライアントとの契約期間)
- 業務内容
- 発注元(契約相手)会社名・住所・電話番号
- 発注元と作業場所が違う場合の、作業場所会社名・住所・電話番号
作業者単位での記載が求められるため、一つのクライアントに作業者が複数人いる場合は、全作業者の記載が必要となります。
当日必要な書類の準備
調査当日には、調査により異なりますが、主に以下のような書類を用意するよう指示されます。
出向契約に係る書類(自社が出向元)
- 出向契約書や覚書などの出向に係る基本契約書、当該契約書に付属する書類
- 就業条件明示所、作業マニュアルなど出向社員の就業条件が分かる書類
- 見積書、請求書、領収書、支払通知書など出向料金に関する書類
- 技術指導計画書、事業立ち上げ計画書など出向目的についての計画に関する書類
- 計画達成状況報告書など出向目的の達成状況について報告する書類
- 作業報告書、賃金台帳など出向社員の管理に関する書類
- 組織図、配置図、座席図など出向先の組織・人事体制が分かる書類
業務委託契約に係る書類(自社が受託者)
- 業務委託係る基本契約書、当該契約書に付属する書類
- 個別契約書(発注書・仕様書)
- 見積書、請求書、支払書など委託料金に関する書類
- 面談記録、スキルシートなど現場の選定に関する書類
- 作業指示書、作業依頼書、作業マニュアル、メールなど発注書から受託者に対する作業指示に関する書類
- 業務報告書、作業日報など受託者から発注書への業務報告に関する書類
- 雇用契約書、賃金台帳、出勤簿など作業者の雇用管理に関する書類
- 組織図、配置図、座席図など当該作業者の組織編制が分かる書類
派遣契約に係る書類(自社が派遣元)
- 労働者派遣契約書(基本契約書、個別契約書)
- 労働者派遣の役務の提供を受ける期間の制限に抵触する日の派遣先からの通知
- 派遣先への通知書(氏名等の通知)
- 派遣料金等の明示について就業条件明示書以外で行っている場合はその明示書(就業条件明示書)
- 雇用契約書又は労働条件通知書
- 派遣元管理台帳
- タイムシートなどの派遣労働者が受持下業務等を把握するためのもの(派遣先からの通知)
- 教育訓練の実施状況を確認できる資料
- 派遣登録関係書類(登録申込書等、労働時に交付している説明書類)
- マージン率等の情報提供状況が確認できるHP写し等の資料
求人募集に関する書類
以下のような書類の提出も求められる場合も稀にあります。
- 求人広告(自社HPや求人媒体に掲載された求人広告、面接等により内容に変更があった
場合は、変更明示が分かる書類) - 求人高校に応募し採用された直近●名の労働者に関する書類(雇用契約書、賃金台帳、タイムシート)
実際の状況の確認
仮にしっかりと書類が整備されていたとしても、実際に現場が偽装請負の状態となっていた場合には、偽装請負があったと判断されます。
当然現場の状況を把握していないとなれば管理の不行き届きを指摘されますし、現場の状況を把握していたにも関わらず違反があった場合には、問題解決を怠ったことを指摘されます。
そのため、現場が実際どの様になっていたかの状態把握もしっかりと行わなければなりません。
専門家へ相談してみる
自社で隠蔽工作と捉えられないような対策や、是正勧告などを実際受けた場合の対応などを完璧に行うことは容易ではありません。そのため、SES事業に詳しい弁護士や社労士などの専門家へ相談、また協力を依頼すると円滑に事業を進めることができるでしょう。
違反に対する処分・罰則
書類の準備、実際の状況確認をする上で不都合な事実が発覚した際には、その事実を隠蔽してしまおうという考えがよぎるかもしれません。
しかし、隠蔽のために書類を改竄・虚偽の申告等をした場合には、より重い処分が下されることになります。
初めての調査で違反が発覚した場合、重い行政処分が下ることは非常に少なく、指導書や是正勧告などの正しい運用に修正すれば罰までは与えないとする軽い処分に留まることが一般的のため、隠蔽や改竄はリスクでしかありません。
特に、通報によって調査が行われる場合は、あらかじめ関係書類や社内文書などを労働局側は把握していることがあります。
また、調査対象のクライアントにも調査(反面調査)が入り、同じように書類を用意させ、事情の聞き取りがあるため隠蔽や改竄を隠しきることは出来ないと考えた方がいいでしょう。
隠蔽工作などを図ると、その悪質性を問われ、初めての調査でも罰金や社名公表などの重い処分が下されることがあります。
調査当日は提出書類や現場の実態についていくか質問をされることになりますが、こちらも嘘が発覚すると当然処分の対象となります。そのため嘘偽りのない対応が求められます。
まとめ
実は「偽装請負か否か」の判断基準に明確なものはありません。
どのように判断されるかというと、「労働局の担当官の裁量」によって判断されます。そのため、印象が非常に重要な要素となるため、期限の厳守や嘘偽りのない誠実な対応がとても重要です。