社長や人事担当者が知っておくべき「従業員への退職勧奨」の進め方と対応方法【2022年6月加筆】

「この従業員と一緒にやっていくのは難しい」「従業員としても自社には合わないのではないか」という場面は会社経営をしていると出てくるのではないでしょうか。

そういった場合には、やはり退職してもらうのが、お互いの将来のためにも良い選択なのだと思います。

そんな場面でよく行われる対応として、退職勧奨退職勧告)があります。退職勧奨は、正しく行えば決して違法なものではありませんが、違法と見なされると高額な賠償金の支払いなどに繋がります。

退職勧奨には、トラブルを避けるために注意するべきポイントがあります。

社労士5000

退職勧奨で注意するべき3つのポイント

違法な退職勧奨とならないため、特に気を付けなければいけないことが3つあります。

実際に退職勧奨をする際には、このポイントを抑えておきましょう。

1)伝えかたに要注意!「同意しなければ解雇」は勧奨ではない!?

退職勧奨とはあくまで「退職を勧める」ことですので、退職勧奨として処理するには必ず本人の同意が必要になります。

実際には退職を勧めても、同意をしない従業員もいるでしょう。

しかし、従業員が同意しない時に、「同意しなければ解雇する」と伝えて退職勧奨をし、従業員からの同意を得た場合、実際に解雇に相当する事由がなければ、違法な退職勧奨として、その退職の合意は無効と判断される可能性があります。

当然、解雇に相当する事由がある分には問題ありませんが、誤認を招く伝え方にならないよう、「同意しなければ解雇」とする理由を、よく説明することが望ましいでしょう。

2)不当な配置転換や業務変更はNG

違法な退職勧奨として、その退職の合意は無効と判断される可能性があるのが、不当に「窓際部署」や「追い出し部屋」などに配置転換・業務変更をし、退職に追い込む様な対応をした場合です。

1と同様、合意による退職でも、退職勧奨に応じさせるための対応が不当であると、違法であると見なされます。

ただ、業務運営上、退職勧奨をした、もしくはする予定の従業員の配置転換や業務変更がやむを得ない場合もあると思います。その際は、退職に追い込むためのものでない旨の説明を十分に行い、納得してもらうようにしましょう。

3)執拗な退職勧奨はNG

長時間・多数回にわたる退職勧奨の末、退職となった場合、違法な退職勧奨と判断される可能性があります。勧奨として許される範囲を超えた「退職の強要」と判断されますので、行き過ぎた勧奨には注意するようにしましょう。

過去の判例では、4か月の間に30回以上、長いもので1回あたり8時間に及ぶ退職勧奨については、大声や机を叩くなどその他の要因も含めて、違法な退職勧奨であるとしいています。

反対に、週1回、1回あたり30分程度の面談を合計7回行ったものでは、適法な退職勧奨の範囲内であり違法なものではないとしています。

「週に何回以上」「どのくらいの期間」といった明確な判断基準ははありませんが、常識的な範囲で行う必要があります。

違法な退職勧奨には高額な賠償を命じられることも

違法な退職勧奨を行なったと判断された場合は高額な賠償を命じられる可能性があります。

数百万円の慰謝料の支払いや、退職を無効とし復職を希望した場合には、復帰までの期間の未払い賃金などを含め、1000万円近くの支払いを命じられているケースもあります。

「退職勧奨」と「解雇」は別物?

「退職勧奨」とは「解雇」とどう違うのでしょうか。

大きな違いは、従業員本人の同意があるか否かです。「解雇」にはもちろん同意がいりません。解雇に相当する事由があれば、会社側が一方的に従業員を辞めさせることができる手段です。

一方「退職勧奨」では、あくまで会社側は従業員に対し退職を「お願い」「お勧め」をし、従業員本人がそれに同意することが必要になります。

退職勧奨の進め方

実際に退職勧奨を実施するにあたり、以下4つのポイントを抑えて進めて行きましょう。

1)理由・経緯を明確に伝える

退職を勧められる従業員は、解雇でないとはいえ、ショックを受けるでしょう。

「なぜ対象がその従業員であるのか」「退職してほしい明確な理由」「退職勧奨に至るまでの経緯」をしっかり説明したうえで、理解・納得してもらうことが重要です。

「会社としてはチャンスを与えたにも拘わらず改善がされなかった」などの経緯があるとより納得させやすくなりますので、いきなり退職勧奨とするのではなく、何回かの口頭・書面による注意、指導などを行いうというステップを踏むことを検討する必要があるでしょう。

退職勧奨を行う時には、批判的な内容だけではなく、「あなた(従業員)にとってもミスマッチなのではないか」といった、従業員の立場にも立った話ができると、より良いかもしれません。

2)十分な準備を行なった上で面談を行う

面談を行う際は、上記の内容や退職勧奨をするに至るまでの経緯、想定問答などをあらかじめまとめておき、面談に臨むようにしましょう。しっかりとした準備を行なった上で面談に臨む事で、会社側もしっかり考えて対応しているといったアピールにもつながります。

3)従業員が合意した後のサポート

合意に至った場合には、退職に関する手続きなどを含め、最後までしっかりサポートしましょう。

例えば、「退職勧奨による退職は、会社都合退職とすることによって、雇用保険が自己都合退職より早く受給が始められ、より長い期間受給できる」といった情報提供です。

きちんとしたサポートを行う事で、、引継ぎなど最後までしっかり働いてもらいやすくなります。

4)退職届の確保

また、退職届を必ず提出させるようにしましょう。解雇でないことの証明にもなります。

まとめ

退職勧奨ではトラブルが発生しやすいため、ポイントをよく理解した上で対応する必要があります。

脅迫や強要など社会的に不相当なやり方で行われる退職勧奨は違法な行為です。ひとたび誤った対応をしてしまうと「退職強要だ!」「解雇だ!」と大きな問題になりかねます。

高額な賠償金の支払いに発展しないためにも、一時の感情に任せず、冷静に対応するよう心がけましょう。