IPO(新規上場)に向けた労務審査の2つの注意ポイント【2021年11月加筆】

社労士5000

IPOの労務審査のチェックポイント

IPO(新規上場)をするにあたって、大きなウェイトを占めるのが人事や労務体制の整備です。

上場後も持続的に発展する会社であるためには、会社の重要な経営資源である「ヒト」をどのように確保し、活かしていくかの戦略が必須となります。

それとともに、「ヒト」に関する法令を遵守しているか、そのような体制が整えられているかが非常に重要になります。

IPOにあたっては、労務事項の審査が重要になるのです。以下では、労務審査上、特に問題となる事項について解説します。

未払賃金や勤怠管理

労基法においては、労働時間、休日、深夜業務の実施につき、種々の定めが置かれています。

このため、会社には、個々の社員の勤務時間を適正に把握する仕組みを構築する義務があるといえます。

上場審査においては、労働時間の管理体制の有無およびその内容が、未払残業代の有無を確認する前提として確認の対象となります。

具体的な勤怠管理のポイントとしては、以下の3つが挙げられます。

  1. 出退勤時間につき、客観的な記録が残る方法(タイムカード、ICカード入力など)により管理・記録しているか
  2. 個々の社員やその上長による恣意的な労働時間の操作がなされないよう、労働時間の修正・変更をできる権限を労務管理に責任ある地位に就く管理者に限定しているか
  3. 通常の時間外労働時間だけではなく、深夜労働・休日労働時間も別途集計できる体制・システムを用いているか

このように、会社として、きちんと勤怠管理しているかが見られているのです。

残業代の未払いの有無についての審査は、上場審査項目のなかでも重要なポイントの1つです。

上場準備の過程においては、過去・現在の未払残業代の有無の調査が命じられます。

残業の仕組みは、意外とわかりづらいことが多く、会社としては適正に支払っているつもりでも、実際には多額の残業代が発生しているということが珍しくありません。

未払残業があることが発覚した場合には、労務管理上の審査として、問題があると判断されます。それだけではなく、未払残業代の支払いという金銭の支払いが発生するのです。

残業代請求権の時効は2年間です。そうなると、最大2年間の未払残業代のすべてを精算するよう求められることになります。

このような事態が生じてると、予期しない多額の人件費を計上せざるを得なくなり、場合によっては上場スケジュールを遅らせざるを得ない事態が生じます。

また、未払残業が発生したしまう会社は、コンプライアンスの観点から問題があるということで、上場の時期が延期、場合によっては、上場自体がなくなってしまう可能性もあります。

このように、労務上の管理は、会社にとって、非常に重要なのです。

従業員とのトラブル

社員との間で紛争を抱えている場合も、上場審査で問題となり得ます。問題になるのは、上記のような未払残業のトラブルや解雇トラブルです。

特に、何らかの事情により解雇した元社員との間でその解雇の有効性が問題となった場合、会社に非があるとされれば、多額の賠償につながるおそれがあります。

トラブルや紛争を多数抱えているというのは、上場審査上でもマイナスです。

社員との紛争が多発しがちな会社は、安定性・継続発展性に欠ける会社であると評価される場合があります。

また、実際にあったケースとして、上場審査期間中に「残業代の未払いが横行して、会社はこれを隠している」などの匿名の通報が証券取引所宛てになされることもありました。

社員または元社員が会社の労務管理に不満をもっている場合には、このようなことが起こってしまう可能性もあります。

もちろん、このような通報があったからといって、全てを鵜呑みにするわけではありませんが、その場合、その通報の実際の真偽はともかくとしても、事実関係の調査に時間を要してしまう等により、上場スケジュールに影響が生じることもあることもあるのです。