退職する社員に備品を返却してもらうための対応策とは【2021年10月加筆】

会社は、数多くの備品を社員に貸与しています。パソコンやタブレット端末、社用携帯などの電子機器類や、制服やカギなど、パッと思いつくだけでもかなりの数が思いつくのではないでしょうか?

それらの備品について、退職した社員から全て返却されていますか?

退職前に備品の返却を促したいところですが、正式な手続き無しに突然来なくなってしまった社員には促しようもありません。

パソコンや携帯電話などの電子機器類は値段も高いことや、社内情報が記録されている可能性があること、制服や鍵などは防犯や犯罪行為などにも関わる可能性があることから、どれも回収は必須といえます。

では会社は備品の回収についてどのように対応するべきなのでしょうか。

社労士5000

備品の紛失や返還しない場合に、損害賠償や罰金の請求はできるの?

損害賠償や罰金の請求は、基本的には可能となっています。

しかし、「〇〇を返却しなかった場合は、●万円」という規定をあらかじめ備えておくことは禁止されています。

これはあらかじめ賠償を約束させる「賠償の予定」にあたり、労働基準法で禁止されています。

あくまで、「予定」が禁止なだけであって、実際に会社が被った損害を賠償してもらうことは禁止されていませんので、被害額を請求することは可能です。

また、罰金や損害賠償の請求は可能ですが、その徴収を給与から控除することは出来ないため、別途請求を行わなければなりません。

しかし、就業規則に懲戒処分について規定されていれば、減給制裁として罰することができます。もちろんこれは労基法の制裁制限の範囲を超えない場合に限ります。

罰金や損害賠償はいくらまで請求はできるの?

例) 備品として支給した2万円の社用携帯を、破損、若しくは返却しないため、その損害を賠償させたい

→この場合、2万円全額を請求することは難しく一般的には一部負担となります。

もし、この社用携帯が破損も無く何事もなく返却されれば社内で使い回すことが想定されるため、新品の価格を全額請求するのは過剰請求となるからです。

また、損害の賠償という名目ではなく、減給制裁とする場合には、労働基準法上の制裁規定の上限にも従わなければならず、以下を超える減給処分はできません。

  • 一回の減給額が平均賃金の一日分の半額
  • 総額が一賃金支払期における賃金の総額の1/10

給与を支払わないという方法

会社側としては「備品を返却しない場合、給与差し止め!」とするのが、一番簡単で確実な方法で、真っ先に思いつく方法の一つなのではないでしょうか?

しかし、給与の差し止めは労働基準法違反となり違法行為となるため、行うことはできません。

労働基準法では、「賃金はその全額を決められた期日に支払わなければならない」と規定されており、これに違反した場合には30万円以下の罰則となることもあります。

備品回収に関する会社の対応策とは?

では、備品の返却や未返却の場合の損害賠償や罰金を支払ってもらうためには、会社としてどう対応すべきでしょうか?

この様な場合、「給与を現金払い」にするという対応が効果的と言えます。

銀行振込により給与を支払っている会社がほとんどだと思いますが、上記の通り給与の差し止めが禁止されているとなると、給与は一度全額を支払い、その後備品返却の要求や罰金・損害賠償等の請求を別途しなければなりません。

備品の返却に応じない社員が、別途請求に対し、備品の返却や罰金・損害賠償の支払いを素直に行うでしょうか?

そのため、最終給与を現金で直接支払うことで、罰金や損害賠償を支払わせる機会を作ることが出来ます。

労働基準法では、賃金は直接現金で支払えばよいとしているため、賃金を現金で手渡しすることは法律違反にはなりません。

最終給与を現金支払いで対応するために、以下の作業が必要となります。

1)備品返却の督促もしくは不返却(紛失・破損等)のための罰金額の連絡及び罰金支払いの督促

この催促で備品の返却もしくは罰金の支払いがされれば何も問題ありませんが、もし返却・支払いがされなければ②へ移行します。

2)最終給与を現金支給に変更する旨の通知を送る

通知は必ず行ってください。

これにより、直接会う機会を作ります。脅迫のような形にならない様、注意が必要です。冷静に対応してください。

3)身元引受人へ上記の連絡や、内容証明郵便による通知

2で約束をしたにもかかわらず、対応しない場合などに行います。

この通知で対応しない場合には、法的措置(訴訟等)をする可能性がある旨を記載しておくと良いかもしれません。

4)訴訟等の検討

身元引受人への連絡や内容証明郵便による通知でも反応がなければ、返還請求の訴訟等を提起することになります。

これらを行う際は揉めた時(訴訟等)の証拠となる様に、必ず経緯や請求する際は通知書を出すなど書面で記録を残しておくことが大切です。

まとめ

社員からしたら備品は支給されたものなので、タダのように感じてしまうかもしれません。

しかし当然のことですが、会社側からしたら備品はタダではありません。備品代だけではなく、そのための人件費やその他諸々費用が掛かっています。

仕方ないと諦めるのではなく、就業規則を整えたり備品の返却についての周知を行ったりするなど、予めの準備が必要と言えるでしょう。