【解説】従業員の給与を仮想通貨で支払うことはできるのか?【2022年12月加筆】

少し前に、IT企業の大手である「GMOインターネット株式会社」が、従業員の給与の一部を仮想通貨の一つである「ビットコイン」で受け取ることができる社内制度を導入するとして話題となったことがありました。

GMOの社内制度としては、従業員本人の希望により、1万円から10万円までの範囲において1万円刻みでビットコインとして受け取ることが可能といったものです。

GMOは、仮想通貨の普及のためとしていますが、まだまだ発達途中である「仮想通貨」を賃金として支払うことは、可能なのでしょうか?

社労士5000

賃金の定義とは?

この話をする上でまず考えなければならないことは、そもそも賃金とは何かということです。

労働基準法で、賃金とは「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と、定めています。

ここで重要なのは、「労働の対償」であり「使用者から支払われるもの」という部分です。

例えば、諸外国におけるチップ制度は、「労働の対償」とも言えなくもないですが、お客さんから直接貰うことが一般的であり、「使用者」から支払われるものではないので、基本的には賃金にはなりません。

しかし、これをサービス料などとして一律に集めた上で、労働者に分配した場合には「使用者」から支払われるため、賃金に該当すると考えます。

賃金の支払方法に関する法律上の原則

賃金の定義と併せて、労働基準法には、賃金の支払い方に関して5つの原則を定めています。

1:通貨払の原則

賃金は、通貨で支払わなければならないとされています。

ただし、以下の場合には通貨以外でもいいとしています。

  • 法令に別段の定めがある場合
  • 厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令の定めるものによる場合

前者は、今のところ存在しません。後者は銀行振り込みや小切手などがあります。

2:直接払の原則

賃金の支払い方は、直接、労働者に支払わなければならないとし、代理人や賃金債権を譲渡した場合の譲受人などに支払うことを禁止しています。

ただし、使者(妻子等)に支払うことは問題ないとしています。本人が病気などで受け取れない場合に妻がかわりに受け取る、などといった場面が考えられます。

3:全額払の原則

賃金の全額を支払わなければならないとされています。

ただし、以下の場合においては、一部を控除して支払うことができるとしています。

  • 法令に別段の定めがある場合
  • 労使協定がある場合

法令に別段の定めとは、源泉控除などがあたり、労使協定については、社宅費や組合費などがあります。

また、一定のルールに則った端数処理についても、控除が認められます。

4:毎月1回以上払の原則

賃金は、必ず毎月1回以上、支払わなければならないとされています。隔月などは出来ないということです。

たとえ、年俸制であっても、毎月1回以上支払う必要があります。

5:一定期日払の原則

賃金は、一定の期間を定めて支払わなければならないとされています。

これは、支払日を特定できるようにするということが趣旨となります。月給の場合は、「月の末日」や「25日」、週給の場合は、「水曜日」などといった定めです。

しかし、月給の場合に「第4月曜」などとすることは、特定できたとは言えず、認められないとされています。

給与・賞与等の支払いを仮想通貨にすることは可能なのか?

GMOに関しては、次の理由から、法的問題はないと考えているようです。

  1. 本人の希望によること
  2. 給与から控除した資金で、会社が仮想通貨の購入をするという流れであること

これらのことから、給与の一部を使って仮想通貨を購入するものであるため、何ら賃金支払の原則には違反していなというスキームのようです。

つまり、今回のスキームは、あくまで購入を代わって行い、その原資が給与であるということになります。

結局のところ、給与自体を仮想通貨にする訳ではないため、給与の仮想通貨払いが合法か違法かは未だ不明確であるという状態は変わらず、仮想通貨払いを導入するにはまだリスクがありそうです。

まとめ

現行法上、仮想通貨による賃金の支払いについては、明確な規定はありません。

ただし、賃金支払いの原則に違反するとなれば、使用者に対して30万円以下の罰金を科されることもあります。

仮想通貨による賃金の支払いには、法整備を含め、もう少し時間がかかるかもしれません。