労働者派遣契約を中途解約する場合のリスクと対策【2023年1月加筆】

派遣と業務委託
社労士5000

労働者派遣契約の中途解除ができるの

派遣先と派遣労働者が労働者派遣契約を締結する際には、労働者派遣の期間が定められます。

派遣先が、労働者派遣契約を期間満了に伴い終了させることについては、契約自由の原則が妥当し、法的制約があるわけではありません。

労働者派遣契約をその期間満了前に解除すること(中途解除)も、派遣法27条が禁じる場合を除き、それ自体に法的制約があるわけではありませんが、労働者派遣契約の中途解除については、次に述べるような雇用安定措置を講じなければならないほか、種々の紛争リスクがあるため、その点注意する必要があります。

派遣契約の中途解除に伴い派遣先がするべき雇用安定措置

派遣先は、労働者派遣契約を解除するにあたっては、次の措置を講じなければなりません。

  1. 労働者派遣契約の締結にあたって講ずべき措置
    ・新たな就業機会の確保を図る旨の定め
    ・損害賠償等に係る適切な措置の定め
  2. 労働者派遣契約解除の事前申入れ
  3. 派遣先における新たな就業機会の確保
  4. 損害賠償等に係る適切な措置
  5. 労働者派遣契約解除の理由の明示

上記②③④の各措置は派遣先の事情により労働者派遣契約を中途解除する場合に講じなければなりません。

また、④の損害賠償等に係る適切な措置について、派遣先の責めに帰すべき事由により労働者派遣契約の中途解除を行おうとする場合に、派遣先における新たな就業機会の確保を図ることができないときに、少なくとも当該労働者派遣契約の解除に伴い、派遣元が当該労働者派遣に係る派遣労働者を休業させること等を余儀なくされたことにより生じた損害の賠償を行わなければならないとされています。

この損害の賠償については、派遣元が派遣労働者を休業させる場合における休業手当に相当する額または派遣元がやむを得ない事由により派遣労働者を解雇する場合における解雇予告手当に相当する額とされていますが、業務取扱要領によれば、これらは派遣元に生ずる損害の例示であり、休業手当・解雇予告手当以外のものについても、それが派遣先の責めに帰すべき事由により派遣元に実際に生じた損害であれば、その賠償を行わなければならないとされています。

労働者派遣契約の中途解除に伴う紛争リスク

派遣先が自己の都合により労働者派遣契約を中途解除することが直ちに民法上の不法行為となるわけではありません。

もっとも、裁判例の中には、特異な経緯をたどった派遣労働者についてではありますが、派遣先は、雇用の維持または安定に対する派遣労働者の合理的な期待をいたずらに損なうことのないよう一定の配慮をすべき信義則上の義務があります。

派遣先による労働者派遣契約の中途解除等は、その時期や態様等において派遣労働者の雇用の維持または安定に対する合理的期待をいたずらに損なうことがあった場合には、当該解除は上記信義則上の 配慮義務に違反するものとして、不法行為に基づく慰謝料請求を認めたものもあります。

労働組合からの団体交渉の申し入れ

さらに、派遣労働者を組織する労働組合から団体交渉の申入れがあることも考えられます。

過去の中労委命令においては、労働者派遣契約の中途解除に伴う派遣先の雇用安定措置(上記③④)について、派遣先にお いてこれらの措置を講じていない場合には、派遣労働者を組織した労働組合からの団体交渉申入れを拒めなくなるとの見解を示しています。

なので、やむを得ず労働者派遣契約を中途解除せざるを得ない場合、上記の雇用安定措置を尽くすことが重要です。

加えて、派遣先が労働者派遣契約を中途解除するのに伴い、派遣元が派遣労働者との労働契約を円満に終了させることを選択するというのであれば、上記の雇用安定措置とは別にその場合に派遣元において必要となる経済的負担について派遣先が派遣元に対して一定程度補償するということも、紛争リスク回避のために合理的な対応といえます。