残業代における始業時間の扱いは
未払い残業代の争点の1つに、始業時間前に出勤した場合の問題があります。
会社側は、始業時間前の労働を義務付けたこともなければその時間にすべき業務もないとなった場合があります。
従業員側は実際にその時間から働いているし、そのことを会社も知っていた主張するこも多いです。
この場合、どういう判断がされるのでしょうか?
早出残業になるかの判断は
早出残業か否かは、未払い残業代の問題だけでなく、時間外労働の上限規制との関係でも問題になります。
例えば、裁判例では、出勤簿に自ら記入した始業時間(ほぼ所定始業時間を記入)よりも前から出社し勤務していたとの主張に対して、裁判所が出勤簿の記載の信用性を認め、早出残業を認定しなかった事案があります。
裁判所が重視するポイントを見ていきます。
会社側の労務管理の信用性
裁判所は、労働時間の把握義務が会社にあることを前提に、会社がどのようなツールで労働時間を管理しているのかを確認します。
タイムカード、出勤簿、タコグラフなどがこれに該当します。したがって、労働者側が毎日の労働時間を自ら手帳などにメモしていたとしても、裁判所はいきなりそれを採用するのではなく、まずは会社が正式に管理している労働時間に関する資料の信用性を吟味します。
そのうえで、例えば会社が管理している資料が様々な理由から信用できないとなったときに、その他の資料や証言などから労働時間を認定していくという流れになります。
例えば、会社が出勤簿があり、そこに自ら始業時間(ほぼ所定始業時間)を記入していた場合には、会社側が管理している労務時間が認定されることが多いです。
従業員が、本当の労働時間を書けない事情があったか
裁判所は、このようなケースの場合、出勤簿に真実を書けないような事情があったかを確認します。会社が、仮に働いたとしても所定始業時間より前の時間を出勤簿に書くなと指示していたり、そのような記載をしたら書き直しをするように指示していたりしたような場合です。
例えば、出勤簿の『出勤時間』欄に午前9時である旨を記載して提出したが、実際には8時30分には出勤していたという場合、午前9時と書いた理由が、「慣習であった」旨を主張した場合には、このような主張は認められないことが多いです。
また、実際の業務内容からも、そのような早出をしなければ仕事が回らないという状況にもなく、会社が原告に対して所定始業時刻よりも早い時刻から業務を行うよう指示又は命令をしたなどの事情もうかがわれないと判断している裁判例もあります。
さらに裁判所は、実際に従業員が一律に出勤時間を午前9時又は午前8時30分と記載していたわけではなく、それより早い時刻を記載することもあったといった具体的な事情も認定しているのです。
裁判所の判断でのポイント
会社側の労務管理ツールに真実を記載することができ、かつ、本人の供述以外に始業時間前の労働を基礎づける証拠がないような場合には、従業員の主張する早出出勤の時間は認められない傾向にあります。
しかし、早出残業で対応しなければならない業務量があったとか、本人の供述以外にも早出残業をしている証拠があった場合は、結論が変わる可能性はあります。
ただ、裁判所としては、きちんと労働時間を申告できる状況であれば、基本的に会社の資料を信用しています。
これは始業時間に限らず、終業時間や休憩時間についても同じです。
例えば、会社が月に1回、今月の労働時間、時間外労働時間はこれで間違いないですか?と労働者に確認し、間違っていなければその旨のサインをもらい、間違いがあれば指摘をしてもらい、実際に修正するなどの運用をしていれば、本件と同様の争いになった場合に、「違うのであれば毎月の確認の際に言えたのではないか」と反論がしやすくなり、トラブルになりにくくなります。