副業禁止規定が無効になる場合と対策を裁判例から読み解く。

社労士5000

副業禁止っていいの?

日本の会社では、就業規則に「会社の承認を得ないで他の会社に雇い入れられることを禁ずる」といった条項がおかれ、副業が禁止されたり、届出や許可を要するとされたりすることが多いです。

こうした規定のもとで副業がなされた場合に、就業規則に違反したという理由で解雇や懲戒手続、又は退職金の不支給という方法により副業に制裁を加え、その有効性などを巡り裁判になることがあります。

従業員は、労働契約の最も基本的な義務として、使用者の指揮命令に服しつつ職務を誠実に遂行すべき義務を有しており、労働時間中は職務に専念し他の私的活動を差し控える義務を負担しています(職務専念義務)。

しかし、労働者は労働契約を通じて1日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのが原則であり、就業時間外は本来労働者の自由であるため、就業規則で副業を全面的に禁止することは、基本的に合理性を欠くものといえます。

過去の裁判例も、このような副業許可制の違反について、以下のば会うに限り、懲戒処分の対象となると解しています。

  • 労務提供上の支障が生じた
  • 企業秩序への影響がある

その中で、会社側が負けた裁判例を見ていきます。

【判例1】就業規則と照らし合わせて解雇通知書を作成していない

裁判例では、会社は、A社から事業譲渡を受けて設立され、その際に労働契約の内容である就業規則も引き継がれたので、本件の懲戒解雇は本件就業規則に基づき行われたと主張しました。

ところが、本件解雇に係る通知書に記載された根拠条文の提示が解雇とは全く無関係の条文だったという事案です。

会社は、どうしてこのような誤記に至ったのか合理的に説明ができず、結局、本件解雇の時点で会社が本件就業規則の存在を認識していなかったと認定されたのです。就業規則が存在しない以上、会社は社員を懲戒解雇することはできません。

初歩的なミスですが、解雇通知書の根拠条文の誤記は致命的であり、就業規則の各条項と照らし合わせながら解雇通知書を作成しなかったことが大きな敗因となっています。

【判例2】事実関係の調査が不十分であった

会社による懲戒解雇は無効となりましたが、本件判決は、会社が懲戒解雇に固執していないこと、普通解雇は懲戒解雇に比較して、従業員に有利であると考えられることを理由として、懲戒解雇の普通解雇への転換を肯定できる余地があるとしました。

ところが、普通解雇をしてみた場合であっても、結局、本件解雇は解雇権の濫用にあたり、無効であると判断されています。

裁判例では、従業員が副業で日常的にアルバイト行為をしていたと会社側が主張していたのに対して、実際に証拠から認定できるのは、「年間1~2回程度」でした。

判決でも、「本件各解雇は、十分な根拠に基づいて行われた解雇ではないといわざるを得ない」と厳しく判断されている例もあります。

【判例3】労務提供への支障等の有無・程度を検討した形跡がない

従業員の副業について、職務専念義務に違反するか否か、さらに解雇が相当であるか否かを判断する上では、「労務提供に支障があるか」「会社の信用、名誉の侵害の有無、会社の損失」などを慎重に検討しなければなりません。

しかし、会社側に、このような検討がなされた形跡がない場合には、裁判例でも会社側が負けることが多いです。

【判例4】黙認していたと誤解された

従業員が副業していることに、経営者が許可、あるいは少なくとも黙認しているとの認識を有していたことも、従業員が職務専念義務に違反し、あるいは、被告との間の信頼関係を破壊したとまでいうことはできない理由に挙げている裁判例があります。

副業禁止は、会社側の自由で良いわけではない

以上のように、副業禁止は、当たり前の規定ではなく、会社側としては、きちんと設計する必要があります。

副業禁止にするのであれば、きちんと設計する必要があるのです。