従業員の給与額の決定方法と言えば、日または時間により算定することが一般的です。
企業の中には、労働者の給与の決定について、どれだけの量の仕事をこなしたのかや、どれだけの質の仕事をこなしたか、どれだけの成果を上げたかなど、その月の成果や成績によって給与額を決定する制度を導入している企業があります。
いわゆる成果報酬制というものです。企業によっては、歩合制やコミッション制など様々な名前で呼ばれます。
その中でも、「完全歩合制」や「フルコミッション制」などという名称の制度を導入している企業を稀に見かけます。
この「完全歩合制」や「フルコミッション制」という制度は、非常に注意が必要な制度であるにもかかわらず、良く理解をせず、安易に導入している企業が見受けられます。
元来、営業職などで導入されがちな歩合制度ですが、近年では、成果の見えやすいIT企業などでも多く使われています。
IT企業が「完全歩合制」や「フルコミッション制」を導入する際に注意しなければならない点とは、どういったことなのでしょうか。
そもそも、「自社雇用社員」の完全歩合制やフルコミッション制は・・・
「完全歩合制」や「フルコミッション制」について、給与の全てを、こなした仕事の量や質などといった成果・成績によって決定できるものだと考えている企業が多くありますが、雇用契約を締結している労働者に関して、このような給与の全てを成果・成績で決定することは、法律上認められていません。
労働基準法では、完全歩合制やフルコミッション制などの出来高払制の労働者に対しては、最低限の保証として、労働時間に応じた一定額の賃金を保証しなければならないとしています。
この保証とは、明確な数字の決まりまではありませんが、一般的に平均賃金の60%程度と言われています。
つまり、完全歩合制やフルコミッション制などにより、月ごとに変動させることが可能な範囲としては、保証しなければならない平均賃金の60%以外の40%の部分に限られるということであり、仮に、一切成果・成績を上げなくても、給与が0円といったことはできず、変動幅が40%を大きく超えれば、労働基準法違反ということになるのです。
完全歩合制やフルコミッション制を「業務委託」としている場合
上記のことから、雇用する労働者に完全歩合制やフルコミッション制を導入すると、最低保証の問題があることから、雇用契約ではなく、準委任や請負などによる「業務委託契約」による完全歩合制やフルコミッション制の導入をする企業があります。
確かに、準委任や請負などによる「業務委託契約」であれば、完全成果報酬型とすることも可能ではありますが、その場合、指揮命令や労務管理などができないなど、偽装請負などといった別の問題に発展する可能性があるのです。
成果報酬制の有給休暇に関する注意点
上記の様に、業務委託契約に基づく成果報酬制なのであれば、雇用ではないので、有給休暇の問題は発生しませんが、自社で直接雇用する労働者の場合には、有給休暇の付与は必要となります。
成果報酬の場合、有給休暇時の賃金をどのように計算するかという問題があります。
原則は、その賃金算定期間に得た成果報酬分を含めた金額により計算する必要があります。
例えば「1日の所定労働時間が8時間、歩合給が200,000円、その月に働いた労働時間が残業含めて200時間だった場合、1時間あたりの歩合給が1,000円、1日の有給休暇の賃金は8,000円」ということになります。
したがって、毎月歩合給が変わる場合、有給休暇の日額も変わることになるのです。
有給休暇時の賃金は、以下から選択した方法により算定するものとされており、上記は最も一般的な①の方法をとる場合の計算方法となります。
- 通常とおり働いた場合の賃金
- 平均賃金
- 社会保険の標準報酬
成果報酬制の残業に関する注意点
成果報酬制の場合には、残業代計算における割増賃金分の計算に成果報酬部分も含める必要があります。
したがって、毎月歩合給が変動する場合には、残業代の割増基礎賃金も毎月変動することになります。
残業代の割増基礎賃金は、「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」を含まなくてよいとされています。
つまり、成果報酬分を1か月ごとに支払うのか、2か月以上ごとの期間で支払うのかによって、残業代の計算が大きく変わってくるということになります。
残業代を抑えるという視点だけで見た場合には、成果報酬分は2か月以上ごとに支払う方が、割増賃金計算を低くすることができるのです。
まとめ
完全歩合制やフルコミッション制といった完全成果報酬制を既に導入している場合には、正しく運用されているか確認する必要があります。
また、新たに導入を検討している場合には、完全成果報酬は原則できない点や、通常の成果報酬の場合における注意点なども含めて検討する必要があるでしょう。