企業が「内定取消し」をするときの法律的な注意点【2021年11月加筆】

企業で採用を経験していると、内定を出した後に「内定を出した人より人材が現れた」「そもそも新しい人材自体が不要となった」となって頭を抱えたことが、一度はあるのではないでしょうか。

このような場合「まだ入社前の内定の段階だから・・・」と言って、簡単に内定取消しを行うとトラブルを引き起こしてしまう可能性があります。

では、法律的に内定取消しについてどのような点に注意したらいいのか、今回はその点について見ていきましょう。

社労士5000

「内定」とは

そもそも「内定」とはどのような段階でしょうか?「社内で採用が決定した段階であり、雇用契約が締結される前の段階」と考えている方が多いのではないでしょうか。

しかし、内定とは法律上では一般的に「始期付解約権留保付雇用契約」として捉えられています。

これは「始期」及び「解約権」が不随した状態の契約ということあり、通常の雇用契約とは異なります。

「始期」とは雇い入れ日のことです。「解約権」とは、正当な理由での当該契約の停止が可能な権利のことを指します。「内定」とは、これらの権利が留保されている状況と考えられています。

よって、「内定を出した段階でも雇用契約は締結されている」と考えられるため、内定の取消し原則「解雇」と等しい扱いをする必要があります。

内定と内々定の違い

内定の意味は分かりました、では内定と内々定の違いは何でしょうか。

会社によって位置付けが異なりますが、一般的には「内定の決定前段階で、正式な内定を追って通知するなどの連絡があった場合」が内々定の通知と考えられます。「労働契約の予約」のようなものと言えるのかもしれません。

このような内々定の段階では、内定のような雇用契約が締結された状態とは言えないと捉えるのが一般的です。しかし内々定が内定と同視できる内容の場合は、内々定も内定と同様に労働契約が終結したものと見なされる可能性があります。

この事から、内々定の規定が自社にある場合、内々定がどのような位置付けなのかをしっかりと定義しておかなければなりません。

また、内々定の取消しをきっかけに、会社側に「期待権の侵害にあたる」として慰謝料の支払いが命じられた判例も存在します。そのため、内々定の取消しにも慎重な判断が求められます。

内定取消しが認められるケース

実際に内定の取消しが争いの原因となった場合、内定取消しの理由が正当かどうかが判断の基準となります。

内定取消しの正当な理由とは以下のものなどです。

  • 卒業予定の学校を予定通り卒業できなかった場合
  • 病気や怪我などにより、正常な勤務ができなくなった場合
  • 経歴などに虚偽があった場合や、犯罪歴が発覚した場合
  • 内定時には予測しえなかった経営不振等で、既存社員の整理解雇等も発生しているような場合
  • 内定通知書や誓約書等に記載されている内定取消事由に該当する場合(合理的なものに限る)

しかし、以上のような正当な理由がある場合でも、十分な期間をもって内定者には通知と説明をする配慮をしなければなりません。

「十分な期間」に明確な基準はありませんが、内定取消しが解雇と同等の扱いであることから、30日前までには遅くても通知していることが望ましいでしょう。

内定者への配慮が見受けられない通知の場合、会社側に損害賠償の支払いが命じられることもありますので、内定取消しの正当な理由であった場合にも注意を払わなければなりません。

内定取消しに対する会社としての対策

会社として対策できる部分は、上記の「内定取消しの正当な理由」で示した「・内定通知書や誓約書等に記載されている内定取消事由に該当する場合(合理的なものに限る)」の内容です。

合理的な内容であるか否かをしっかり精査して作成しなければなりません。

内定取消事由は、多くのテンプレートがインターネット上に出回ってはいますが、自社の現状や業務内容などに合っているのかに注意を払わなければなりません。

内定取消し理由が不当とされた場合

もし内定取消しの理由が不当とされてしまった場合、どの様な損害を会社側が被らなければならないのでしょうか。

1)内定取消し無効による雇入れ

内定取消しが無効であると主張され、それが認められた際は従業員として雇入れることになります。この場合、雇入れている訳ですから長期的に見てコストがかかる結果と言えます。

2)損害賠償

一般的に、損害賠償として「賃金の○ヶ月分」といった請求をされます。場合にもよりますが、100万前後の賠償金額となることも少なくありません。

先にも述べたように、内々定の取消しの場合でも損害賠償が認められたケースもあります。

3)未払い賃金の請求

1の雇入れと合わせて、就労予定日以降に発生するはずであった賃金を「未払い賃金」として請求されるケースもあります。

解決までに時間がかかるほど、未払い賃金の額は当然増えていってしまいます。不要なはずの人材の雇入れた上、更に未払い賃金の支払いということで最もコストのかかる結果かもしれません。

4)行政による社名の公表

新卒採用の場合「事業活動縮小を余儀なくされているとは明らかに認められない」など、著しく不当な内定取消しと判断された場合、厚生労働省により社名が公表されます。

まとめ

内定者の立場からすると、内定取消しは生活や人生がかかっている出来事と言えます。それゆえ、トラブルになってしまう可能性が高く、解決までに時間がかかるケースが多くあります。

トラブルを避けるためにも、内定の段階であったとしても適切に扱わなければなりません。