近年、裁量労働制を不正に適用することで残業代の支払いを回避している例が増えてきており、労働基準監督署も積極的に指導・是正を強化しています。
働き方改革などで、注目を浴びつつある裁量労働制ですが、どういった制度なのでしょうか?
裁量労働制とは?
裁量労働制とは、以下のようなもので、特別な手続きを行ったうえで導入できる制度になります。
- 労働基準法で定められた「みなし労働時間制」の一種
- ・「みなし労働時間制」には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類がある
- 実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定められた労働時間働いたことになる
- 業務の性質上、労働時間を労働者の裁量に委ねる必要があり、使用者が労働時間等の指定を行うことが困難な業種などに認められる
専門業務型の裁量労働制
専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、労働時間を労働者の裁量に委ねる必要がある一定の「対象業務」のみついて採用することが認められているものとされています。
「対象業務」とは厚労省令により定められた次の19業種をさします。
- 新商品、新技術の研究開発又は人文科学、自然科学に関する研究の業務
- 情報処理システムの分析又は設計の業務
- 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又はラジオ・テレビ放送の制作のための取材若しくは編集の業務
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
- 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
- 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
- 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
- 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
- ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
- 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
- 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
- 学校教育法に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
- 公認会計士の業務
- 弁護士の業務
- 建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
- 不動産鑑定士の業務
- 弁理士の業務
- 税理士の業務
- 中小企業診断士の業務
専門業務型裁量労働制の導入には、労働組合または労働者の過半数を代表する者と書面により協定(労使協定)を締結し、労基署に届出をすることが必要となります。
また、就業規則又は労働協約においても、専門業務型裁量労働制の規定を定める必要があります。
企画業務型の裁量労働制
企画業務型裁量労働制とは、業務の性質上、労働時間を労働者の裁量に委ねる必要があり、使用者による指示が困難である場合などに採用される制度を指します。
対象となる要件は専門業務型裁量労働制よりも厳格なものとされており、事業の運営に関する事項についての企業の中枢を担う企画・立案・調査・分析を行う業務内容であることや、適切な知識や経験を有することなどが挙げられます。
主に、経営幹部や経営の中枢を担う担当者などに適用することが一般的です。
制度の導入については、以下の条件があります。
- 対象者、個々の同意を得ている
- 労使委員会の設置
- 労使委員会の5分の4以上の賛成による可決
- 就業規則か労働協約で採用する趣旨を定め
- 労基署への届出
まとめ
専門業務型の裁量労働制、企画業務型の裁量労働制とも上記のとおり厳格な要件が必要とされております。
裁量労働制に関する違反の多くは、専門業務従事者や経営幹部に採用されるべき制度を、専門業務従事者や経営幹部ではない通常の業務内容を受け持つ従業員に適用していたといったことが挙げられます。
裁量労働制が採用されるような人材は相応の報酬が与えられていることが前提となっているため、実質的に使用者の指示に服している人材には経営幹部のような報酬は与えられていないことが多く、十分な残業代・割増賃金などが支払われていない場合には当然違法となります。
裁量労働制の導入する前には、制度趣旨を十分に理解し、当然ですが制度を正しく運用することが重要と言えるでしょう。