過労死や過労に伴う自殺の問題、働き方改革や震災後の節電など様々な要因により残業や長時間労働が出来ない環境になってきています。
しかし残業などが出来ない一方、業務量が以前から減っている訳ではなく、むしろ五輪景気なども相まって業務量が増えているという企業も多くあるようです。
結果的に、労働時間は減っているが業務量は変わらないため、家に持ち帰るなどして隠れて残業する「持ち帰り残業」が増えているようです。
もし「持ち帰り残業」した分の残業代を従業員から請求された場合、会社は支払う義務があるのでしょうか?
労働時間の定義
労働基準法や判例は、労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」とし、それは客観的に判断されるとされています。
「使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間」とういのは、一般的な会社員の場合だと「会社が決めた場所で・会社が与えた業務を・会社の方針で・会社が決める期日までに行うこと」を言います。
「持ち帰り残業」は「労働時間」にあたるのか?
持ち帰り残業も会社が与えた業務であることは変わりありません。しかし「自分の決めた場所で・自分の時間で進め・次の出勤までは指示もなく・自身の裁量で」業務を行うことになります。
問題はここにあり、具体的な会社からの指示がなく、自身の裁量で業務を進める場合は、原則「指揮命令下に置かれている時間」とは言えないとされています。
会社は「持ち帰り残業」に残業代を支払う必要はあるの?
先に述べたとおり、自身の裁量で進める「持ち帰り残業」は「指揮命令下に置かれている時間」とされないのが通常です。
よって、「持ち帰り残業」は原則、労働時間には当たらず、残業代の支払う義務は発生しません。
しかし、以下のような場合は残業代を支払う義務が発生する可能性があります。
①黙示の業務命令
到底勤務時間内に終わらないような業務を指示した場合などがこれにあたります。
これは具体的な指示がなくても「持ち帰り残業」を暗に指示したと解釈されることがあります。
「持ち帰り残業」を指示したとなると、「持ち帰り残業」は労働時間と捉えられるため残業代の支払い義務が発生します。
②「持ち帰り残業」の黙認・容認
「持ち帰り残業」を従業員がしている事を認識していたにも関わらず、何の対策もしていない場合。
これは会社が「持ち帰り残業」を黙認・容認しており、「持ち帰り残業」を残業と認めていたと解釈されます。
会社が「持ち帰り残業」を残業と認めていたとなると、「持ち帰り残業」は労働時間と捉えられるため残業代の支払い義務が発生します。
「持ち帰り残業」によって生じるリスク
「持ち帰り残業」には、上記のような賃金の問題以外にも、次のようなリスクが考えられます。
①セキュリティー上の問題
データをクラウドやUSBメモリにより社外に持ち出し、セキュリティー対策が不十分なパソコン上に保存された場合には、これにより、会社の機密情報の流出や、社内へのウイルスの持ち込みなどが発生する恐れがあります。
もし、社外に持ち出すのが紙媒体だったとしても、紛失等のリスクはなくなりません。
どちらにしても、労働問題を超えた大参事が起こる可能性があります。
②労働災害の問題
「持ち帰り残業」が労働時間と判断されている状況下で、「持ち帰り残業」中に災害が発生した場合はそれが労働災害として認定されることもあり得ます。
労働災害として認定された場合、もちろん会社側の責任も追及されますし、賠償責任を負う可能性もあります。
まとめ
ノマドワークなどが流行していることから、積極的に業務を持ち帰り、社外で仕事をしようとする従業員も増えてきているようです。
会社として、推奨しているような場合を除き「持ち帰り残業」はさせないようにすることが望ましいと言えます。
会社として「持ち帰り残業」をさせないようにする際は、人員の配置や業務量の調整などの相応な対策をし、また「持ち帰り残業」した場合の罰則等の社内規則を整備し、それを周知させることを徹底する必要があるでしょう。