固定残業代(定額残業代・みなし残業代)が認められるための注意点とは?【2022年10月加筆】

固定残業制定額残業制みなし残業制を導入している企業、導入したい企業は多いのではないでしょうか。

導入手続きが他の給与制度と比べ簡単であることから、利用されがちな制度ですが、意外とトラブルを引き起こす要素を持ち合わせているのです。

今回は、判例から見る固定残業制の有効性を見ていきます。

社労士5000

固定残業代が有効とされるための要件

固定残業代とは、「みなし残業代」「定額残業代」とも呼ばれることもあるもので、一定時間の残業を見込んで、固定額を基本給の一部または手当として支払う制度です。

判例上、以下の3つの点を満たしていれば、原則固定残業代が認められるとされています。

  1. 当該賃金が割増賃金に代えて支払われる趣旨であること
  2. 基本給と固定残業代部分が明確に区別されていること
  3. 固定残業代分を超えて時間外労働を行った場合、差額の割増賃金が支払われる合意があること

固定残業代のメリットと問題点

固定残業代制度は、あらかじめ決めた所定の残業時間内であれば、残業代の算出をする必要がないというメリットがある一方で、残業代の節約のため、制度を悪用する企業が後を絶たないことが問題となっています。

判例でも固定残業代の有効性が認められないケースは数多くあり、固定残業代として認められなかった場合には、企業は支給した賃金以外に時間外労働分の割増賃金を支払うこととなります。

固定残業代の有効性に関する裁判例

基本給とは別に支払われていた業務手当は時間外労働に対する対価にあたらないとして、薬剤師である原告が保険調剤薬局である被告に対し、時間外労働に対する割増賃金の支払いを求めた事例です。

保険調剤薬局では、時間外労働30時間分として業務手当が支給される旨の賃金規定がありました。従業員との間で業務手当が30時間分の固定時間外労働賃金である旨の確認書を作成したことをもって、上記①の「当該賃金が割増賃金に代えて支払われる趣旨である」という要件を充たしていたかが問題となりました。

高等裁判所の判断基準

上記の事例に対し、高等裁判所は、時間外手当の支払いとして固定残業代を有効とすることができるのは、以下に限られるとし、時間外手当の支払いとして固定残業代の一部のみを認容としました。

  1. 固定残業代を超える金額の時間外手当が法律上発生した場合に、事実を労働者が認識してからすぐに支払いを請求することができる仕組み(発生していない場合は、そのことを労働者が認識できる仕組み)が備わっており
  2. これらの仕組みが雇用主により実行されているほか
  3. 基本給と固定残業代の金額のバランスが適切かつ、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合

最高裁判所の判断

これに対して最高裁は、当該賃金が「固定残業代として割増賃金に代えて支払われるべきもの」であるかについては、高裁の要求(上記1、2、3)を必須とするものではないとして、原告に支給された業務手当が固定残業代として有効であると判断しました。

まとめ

上記判例より、「基本給と固定残業代の金額のバランス」や「労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因の不存在」という不明確な要件により、固定残業としての有効性を問われるというのは、企業にとっては過剰な負担と判断された訳です。

この判例を踏まえ、企業は本来的な意図をもって固定残業代制度を正しく運用し、労働者の保護やトラブル防止に努めるようにしましょう。