企業が労使協定の締結が必要な場合について、IT企業専門の社労士が解説

社労士5000

労使協定とは何か

労働基準法では、一定の場合に企業が策定しなければならないものとして「労使協定」というものを規定しています。

労働基準法は、労働時間などの最低労働条件を規定し、企業にその条件を遵守する義務を課しています。そして、これらの規定に違反した場合には罰則が科せられます。

労使協定は、労働基準法の例外を認める手段であり、締結・届出等を行なうことによって罰則の適用を免れることができるというものです。

次のページの表は、労働基準法で規定されている労使協定の一覧です。労使協定には、これだけの種類があるわけですが、このなかでも一般的に結ぶ必要のあるものについて詳しく見ていきましょう。

休憩時間の一斉付与の例外に関する労使協定

意外に思うかもしれませんが、労働基準法では「休憩時間は全社員一斉に取得させる」ことが義務づけられています。

現在、多くの企業、とりわけIT関連の企業などで休憩時間を一斉に取得させているような会社は、ほとんどないのではないでしょうか。実務上も、一斉に従業員がいなくなってしまうと、電話対応などがうまくまわらなくなってしまいます。

いまとなっては、時代にそぐわない規定ですが、労使協定を締結すれば一斉に休憩を与える義務が免除されるという例外が用意されており、通常は労使協定を締結して交代で休憩を取得できるようにします。つい、忘れがちな労使協定ですが、忘れずに策定しましょう。

なお、この労使協定については、労基署への届出は必要ありません。

時間外・休日労働に関する労使協定(36協定)

労働基準法では、原則として1日8時間、1週40時間を超えて労働をさせることや休日に労働をさせることは禁止されています。

しかし、この時間外・休日労働に関する労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届出をした場合には、時間外労働や休日労働をさせることが認められています。

なお、2019年3月31日までは、36協定を締結し、労働基準監督署に届出をするときに、特別な事情がある場合には、労使協定書に「特別条項」を明記すれば、年間6か月までは時間外労働数に制限なく時間外労働をさせることが可能になっていました。

しかし2019年4月からは、労働基準法の改正により、原則として「月45時間・年360時間」(休日労働を除く)の上限が設定され、特別な事情があって「特別条項」を明記しても、年720時間(休日労働を含まず)、月100時間未満(休日労働を含む)、複数月の平均で80時間(休日労働を含む)までしか時間外労働をさせることはできなくなりました。

通常、人員に余裕がないベンチャー企業では、時間外労働はどうしても発生しがちですので、36協定を締結することになると思いますが、その場合でも時間外労働の時間数に留意して、労働基準法違反とならないように注意することが必要です。

また「数年前に36協定を策定したが、その後は手付かずで・・・」というスタートアップ・ベンチャー企業が少なくありません。

特に36協定については、有効期間の定め(通常1年)をしたうえで更新をしなければ、有効期間が切れた労使協定は効果がないので注意しましょう!

年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定

年次有給休暇の「計画的付与」とは、年次有給休暇のうち、5日を超える分について労使協定を結べば、計画的に休暇取得日を割り振ることができるという制度のことをいいます。

会社として、たとえば夏休みや年末年始休暇の時期に有給休暇を充当してもらうことで、計画的に年次有給休暇を取得させることができるわけです。

実は、2019年4月より、年次有給休暇が10日以上付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年5日の有給休暇を取得させることが企業に義務づけられました。

これは、中小企業などについての例外はないので、従業員がたとえ1名であったとしても取得させる義務があります。

この義務が新しく創設されたことで、年次有給休暇の計画的付与制度(通称「計画有休」)に注目が集まっています。 この計画有休制度の実施には労使協定が必要ですので、導入する際には忘れずに労使協定を結ぶようにしましょう。

なお、この労使協定は労働基準監督署への届出は必要ありません。

フレックスタイム制に関する労使協定

柔軟な労働時間制度の1つである「フレックスタイム制」を導入する際には、労使協定の締結が必要になります。 フレックスタイム制を導入する際には、労使協定の策定が必要だということを覚えておきましょう。

なお、この労使協定は労働基準監督署への届出は必要ありません。

専門業務型裁量労働制に関する労使協定

柔軟な労働時間制度の1つである「専門業務型裁量労働制」を導入する際には、労使協定の締結が必要になります。 専門業務型裁量労働制を導入する際には、労使協定の締結が必要だということを覚えておきましょう。

なお、フレックスタイム制とは異なり、専門業務型裁量労働制の労使協定は労働基準監督署への届出が必要になっていますので注意してください。