ピアボーナス(成果給)の注意点を社労士が解説

社労士5000

ピアボーナスとは何か

昨今、ITベンチャー企業を中心に「ピアボーナス」というものの導入をしている会社があります。

「ピア」とは、英語で「仲間、同僚」の意味ですが、ピアボーナスとは、こうした「仲間、同僚からもらう成果給つまりボーナス」のことです。

日本の一般的な企業の人事評価制度は、通常「経営者やマネージャーなどの管理職」が、社員の能力や実績を査定して支給額を決めるというしくみです。

ただし、経営者やマネージャーなどの管理職は、一般従業員の業務に密接に参加するというわけではないため、従業員の働きぶりをずっと見ているということは難しくなっています。

そのため、通常の人事評価では、従業員の他部署への些細な貢献や、表に出にくい「縁の下の力持ち」的な業務貢献は見落とされてしまい、従業員の給与や賞与に反映されにくいというデメリットがあります。

ある調査によれば、現在の人事評価制度は適切ではないと思っている社員は約5割もいるそうです。

こういった背景から、日本でも経営者・マネージャーなどの管理職の評価だけではなく、仲間・同僚によるフィードバックを導入することで、従業員の日々の小さな貢献に報いようという流れがあり、ピアボーナスを導入する企業が大企業やITベンチャーに現われ始めているわけです。

ピアボーナスを導入する効果

日本において、ピアボーナスの導入を支援するサービスを展開する企業もいくつかありますが、基本的なサービスのしくみとしては「日々の業務で、業務・組織に貢献する行ないをした従業員に対し、 従業員同士が感謝のメッセージとともにポイントを送るシステム」 というのが標準的な説明です。

そして、この従業員同士で送り合ったポイントを、給与やインセンティブに反映させていくというのが、ピアボーナスのざっくりとしたしくみです。

たとえば、日本でサービスを展開するピアボーナス「Unipos」の場合、メッセージは、スマートフォンやSlack・Chatworkなどのチャットツールを利用することで簡単に投稿でき、その投稿はタイムラインで全社に共有することができるようになっています。

また、その投稿に他の従業員が拍手ボタンを押すことができるしくみも搭載されているので、それぞれが気軽にコミュニケーションに参加でき、従業員同士がポジティブなフィードバックをし合えるという効果に加えて、社内コミュニケーションを活性化し、組織に一体感を生むという効果も期待できるようです。

現場の評価をリアルタイムに、しかもチャットツール等で簡単に反映させることができるため、従業員のエンゲージメントのアップを図りたいという企業には、相性のよいしくみであると思います。

Uniposはすでに200社以上で導入されているということで、ピアボーナスが大企業やIT企業で広がりつつあることがわかります。

ピアボーナス導入時の留意点

では、実際にピアボーナスを「わが社でも導入したい」という場合には、どのような点に気をつける必要があるのでしょうか。

ピアボーナスを給与の支払いに導入するという場合に気をつけなければならない点としては、以下のようなものがあげられます。

(1)給与規程の変更

ピアボーナスは、給与の成果給の一種なので、導入にあたっては、自社の給与規程の変更が必要な場合があります。

ピアボーナスを導入する場合の給与規程の変更例をあげておくと、次のとおりです。

給与規程の規定例

(ピアボーナス給)

第○条 ピアボーナス給は、日ごろの社員間の業務上の貢献に対して感謝を送りあうことにより、部門・職種間を超えた人的コミュニケーションを促すとともに、会社の行動理念・経営理念を体現するような社員の称賛されるべき行ないへのインセンティブとして毎月、基本給と合わせて支給する。

また、導入する際の注意点として、基本給の一部を減額して原資を確保し、ピアボーナス給に割り当てるというようなことは、労働条件の不利益変更となります。

一方的に基本給を減額して導入するなどという労働条件の不利益変更は、原則として認められないので、そのような方法を取りたい場合には、労働者の個別同意等を取りつけなければ実現は難しくなります。プラスアルファでの支給をお勧めします。

(2)割増賃金の計算方法

毎月、賃金としてピアボーナスを支給するという場合、ピアボーナスも、割増賃金を計算する際の基礎とすべき給与となります。

割増賃金の計算から除外できる賃金は、「家族手当」「通勤手当」「別居手当」「子女教育手当」「住宅手当」「臨時に支払われた賃金」「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」の7種類に限定されていますので、このようなものに該当しない場合には、すべて割増賃金を計算する際の基礎に算入される給与となります。

(3)社会保険料・労働保険料の算定基礎

毎月、賃金としてピアボーナスを支給するという場合には、社会保険料や労働保険料を算定する際に含めるべき賃金とみなされます。

そのため、保険料算定の基礎に入ることになるので、この点には十分な注意が必要です。

管轄の年金事務所等に必ず確認を

ピアボーナスに関しては、日本では新たなしくみであり、社会保険や労働保険を管轄する年金事務所や労働基準監督署においても、まだ取扱いのルールは定まっていません。

本書の執筆にあたり、ベンチャー企業の多い渋谷にある渋谷年金事務所等にも確認しましたが、やはり取扱いについては、やや不明瞭なところも多くあるように感じました。

ピアボーナスを給与として支給する場合には、ピアボーナスの運営会社や自社を管轄する年金事務所や労働基準監督署に確認しながら進めることをお勧めします。