企業の労務管理では「労使協定」というものを結ばなければならないことがあります。
36協定やフレックスタイム制など、労働時間に関することで締結することが多くありますが、企業でよく取り入れられている社内ルールの中には、本来、労使協定を締結しなければならないものが多々あります。
しかし、その多くは、労使協定を未締結のまま導入をしています。
企業でよく取り入れられている社内ルールや制度で、労使協定を締結しなければならなことはどういったものなのでしょうか。
労使協定とは
労使協定とは、労働者と会社との契約のようなものです。
多くの場合は、労働者側が不利になるような内容であることから、不利になることについて同意をしたことの証明、といった位置づけと考えられます。
労働基準法では、特定の事項において、「労働者の過半数が所属する労働組合」、または「労働者の過半数を代表する者」と会社の間で書面による協定を締結することを求めることがあり、この協定が一般的に「労使協定」と呼ばれています。
最も有名なものとしては、残業ができるようにするための「36協定」が、この労使協定にあたります。
会社に導入されがちな、労使協定が必要なもの
36協定やフレックスタイム制などは、労使協定を締結することが必要であることが広く知られた制度のひとつではありますが、会社に導入されている制度の中には、本来、労使協定を締結が必須にもかかわらず、締結がされていないものが多々あります。
具体的には、次のような制度が労使協定の締結が必要な制度になります。
(1)給与から、保険など以外を控除すること
社内行事の積立金や社宅の賃料、会社からの貸付金の返済金などを、給与から直接控除している会社が多くあります。
法律上、賃金は「法令に別段の定めがある場合」もしくは「労使協定による取り決めがある場合」以外、その全額を支払わなければなりません。
「法令に別段の定めがある場合」とは、社会保険や税金などを指します。
つまり、給与から社会保険や税金以外を控除する場合には、控除することについて労使協定を締結しなければなりません。
労使協定により控除が認められるものとしては、購買代金、社宅・寮その他の福利厚生施設の費用、社内預金、旅行積立金、組合費 など、事理明白なもの(根拠や金額が明確であるもの)である必要があります。
なお、この労使協定は、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出る必要はありません。
(2)入社1年未満の育児休業の適用除外
従業員やその家族の妊娠や出産というのは、喜ばしいことなのですが、入社1年未満で育児休業を取得するというのは、会社経営という側面から見ると、困ることもあるというのが実際のところではないでしょうか。
人を雇入れるという事は、人手が足りていないという状態が殆どかと思います。
せっかく雇入れた人材が、事業を支えられるようになる前に長期の休みに入ってしまうということになれば、結局、人手不足は解消できないままとなってしまいます。
そういったことから、入社1年未満の従業員に関しては、育児休業(や、介護休業)の適用を除外する、というルールを設け居ている会社が多くあります。
しかし、これも就業規則や雇用契約書などによる定めだけでは足りず、労使協定を締結する必要があります。
もし、労使協定が締結されていなかった場合、入社1年未満の従業員から育休等を請求されたら、1年未満だからと言って拒否することができなくなります。
この労使協定も、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出る必要はありません。
(3)休憩時間を好きな時間に取らせる
個人や少数のチームで業務を処理するような働き方をする会社では、休憩時間を全社員一斉に取らせることは、非効率であり、従業員もあまり望んでいません。
そういったことから、休憩時間については、所定の休憩時間を各自好きなタイミングで取る(または、部・課・チームごとに交代制で取る)という社内ルールとしている会社が多くあります。
しかし、休憩については、法律上、一斉に与えることが原則となっており、各自で自由や交替制に取得するためには、就業規則や雇用契約書での規定では足りず、労使協定を締結する必要があるのです。
運輸業や接客業など、法律上定められた特定の業種については、協定なしで各自自由や交替制とすることが出来ますが、それ以外は、労使協定が必要です。
休憩時間を自由とする制度を導入していることが多いIT関係の業種に関しては、特定業種には含まれておらず、労使協定が必要です。
この労使協定も、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出る必要はありません。
まとめ
これらを含め、労使協定が締結されていなかった場合には、すぐに作成・締結をしましょう。
特に、ベンチャー企業やスタートアップ企業では、フットワークが軽く、良い制度はどんどん導入をしていきますが、労務専任の担当者が処理していることが少ないため、どうしても漏れが発生しやすくなります。
制度を作る・帰る際には、労使協定が必要かも?という意識を持っていると良いかもしれません。